サンタからの手紙
ーークリスマス前。郵便局が行っている『サンタさんへの手紙』プロジェクトは大盛況だった。サンタであるわしへ、今年も大量の手紙が届く。世界中からの子どもの願いは、年々と複雑化していた。
サンタであるわしも超多忙で、最近は12時間労働なんてザラだった。手紙を見るだけではない。クリスマス当日までのプレゼントの手配なんかもあるし、トナカイの世話もある。……トナカイの体調が万全じゃないと、クリスマスにプレゼントを届けられないからのう。
なんとかクリスマスプレゼントの手配が終わったが、最近の子どもたちはわかりやすい「もの」をあまり欲しがらない。もっと曖昧だけども大事な「もの」ではなく「こと」を欲しがる。「平和でありますように」とか、もっと身近でいうなら「お父さんとお母さんが仲良くいてくれますように」とか……。いくらわしが聖ニコラウスから受け継いできた仕事とは言え、結構難儀である。
平和であるようにか……。確かに世界が混乱していたら、プレゼントなんて言っている場合ではない。ふむ、とりあえずそこか。わしは各国の偉い人たちに一筆書くことにした。トナカイのマークが入ったレターセットに、雪の結晶で作ったつけペンを走らせる。インクはモミの木の葉でできたものだ。
「各国の要人たちへ
わしの仕事が増えてしょうがない。クリスマスは忙しすぎてパンクしそうだ。今の子どもたちの欲しいものNo.1が『平和』なのだよ。だから、クリスマスを口実に、一度停戦してはくれないだろうか? そうしてくれるとわしも助かる。愛と平和への願いを込めて。
サンタクロースより」
たくさんの手紙を書くと、近所のポストに投函する。各国要人への手紙は、ポストマンたちに任せよう。各国要人のもとにサンタからの手紙が届いた! なんて、ちょっと胡散臭く思われてしまうかもしれないからのう。……まぁ、わしから手紙が届いて、要人たちも童心に返ってくれたらそれはそれで嬉しいものだけどもな。要人だって休みは欲しいじゃろうし、年末年始くらい家族とゆっくりすごしたいだろう。もちろん、戦地にいる兵士たちだって同じだ。これを機にそのまま停戦してくれたら、子どもたちへのプレゼントにもなる。
ひと仕事終えたかな、と温かいお茶を飲んでいると、見落としていた子どもからの手紙が見つかった。おっといけない、わしとしたことが。多忙すぎて、ひとりの子どもを蔑ろにしておった。よくない、よくない。
わしは手紙に目をやる。書かれていることにわしは目を丸くした。
「サンタさんへ
毎年サンタさんからのプレゼントは嬉しいけれど、サンタさんはプレゼントをもらえないの?
サンタさんもプレゼントがもらえますように」
HO-HO-HO! 疲れたときにこんなことを言われると嬉しいものだ。だが、自分へのプレゼントか。考えたこともなかったのう。わしはいつもクリスマスシーズンはプレゼントを贈る側だったからな。そうだ、わしももちろんだが、トナカイにも何かプレゼントを贈りたいものだ。まぁ、彼らの場合、仕事だから『ボーナス』と言ったところになるかもしれんがな。
どれ、手紙の差出人はどんな子かな? 名前を見てみると、「ノアより」とあった。ノア……? ちらりとサンタ執務室の外を見てみると、娘がいた。
「ノア、お父さんのところへおいで」
呼び寄せると、膝に乗せてわしはこう言った。
「お父さんはね、クリスマス・イブの間はお仕事だけども、お仕事から帰ってきたあとは少し眠らないといけないんだよ」
そう言ってウィンクすると、娘は顔をぱぁっと明るくした。
なんだか今年のクリスマスも、少し頑張れそうだーー。仕事が終わったら、家族でクリスマスパーティーだ。
みなさんも、よいホリデーを。
サンタクロースより
めりくり 浅野エミイ @e31_asano
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