サンタ邂逅

 ……はぁ、困った。クリスマス、家族と一緒にここのクリスマスツリーを見に来ようと思っていて、仕事のついでに下見に来て正解だった。なんだ、このでかでかとした広告は。


『となりにいる人は、きっと誰かのサンタクロース。』


 じゃねぇんだよ。だから『広告は嫌われ者』なんて言われるんだろうが、てやんでいちくしょうバカヤローおめぇ。そりゃあ俺は息子、娘のサンタさんだよ! でも、それは言えないじゃん。まだそういう現実見せたくないじゃん! 誰だよ、このコピー考えたライター。

 もちろん、カップルとか大人には響くかもしれない。そもそもここのツリーを見に来るのは、カップルや大人が多いかもしれない。……うん、それはわかる。寒い中、夜に子供を連れ出すのも危ないっちゃ危ない。で!も! 子供に大きなツリー見せたいっていう大人もいるんだよ! あぁ、多様性の時代。親のわがままかもしれないけどさぁ……。



……はぁ、参った。なんじゃ、これは。


『となりにいる人は、きっと誰かのサンタクロース。』


 このポスターを見たわしは、メガネを取って拭いてからもう一度文字を見た。隣りにいる人がサンタ……? だったらわしは何者だ? わしこそがサンタだ!! 今日は付け髭を付けていないし、一般人に『擬態』してはいるけども。っていうか、今日は人間の世界に『今年は子どもたちがどんなプレゼントが欲しいのか』のチェックをしに来ていたわけだが……。まぁサンタ業界も人手不足なんじゃよな……わしらが行けてない家庭には、親御さんがわしらのフリをしてプレゼントを置いているのかもしれんが……こんなポスターを書かれたら、ちょっとやる気がなくなる。相棒のトナカイはこういうのを見るとすぐ落ち込むから、連れてこなくてよかったわい。


「あっ」

「おっと」

「……すみません、不注意で」

「いやぁ、お互い同じものを見ていたようですな、HO‐HO‐HO!」

「……?」


 ……ああ、25年前にプレゼントを渡した彼か。大きくなったなぁ。

 

 今の笑い声、どこかで……?


 まだ寒くない、2023年のクリスマス前日譚。

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