めりくり
浅野エミイ
サンタ暴走会
毎日のようにワルをやっていると、一年に一度くらいいいことをしたいと思ってしまうのは罪悪感からだろうか。まぁ今、俺はそんな気持ちである。
暴走族チーム大山一家6代目総長・大原秀幸は悩んでいた。冬は暇だ。仲間に会ったとしてもやることは年の暮れだから稼ぎ時ってことで、カツアゲくらい。そのカツアゲだって、世間一般的には「悪いこと」だ。いつ逮捕されるかわからないし、いい加減そんな悪行から足を洗ってもいいんじゃないかと思っている。なぜなら自分はもうすぐ高校を卒業して、家業のパン屋を継ぐ予定だからである。しかし、もちろんきれいに足抜けできるとは思っていない。歴代続いてきた大山一家はどうなる? とか、しがらみも色々ある。だけども、自分の後輩たちに今の悪い慣習を受け継いでほしくもない。そう思うのは大原が大人になったからだろうか。
「総長、大山一家解散させる気なんスか?」
舎弟の小島が尋ねると、大原は少し言葉を選びながら答えた。
「俺はもちろんだけど、お前ら後輩にもよくないと思うんだよな。このまま悪さしてるのも。もちろん大山一家が居場所になっているやつもいるっていうのはわかる。でも……」
逮捕されたら将来は潰れる。ただでさえ人生ハードモードだってやつもいるのに、そんな人生送らせられるかというのが本音である。大原は人間味のあるヤンキーであった。
「……そうですね。つまり総長は俺たちにも真っ当な道を進んでほしいと」
「ああ、俺の引退をもってな。でも幕の下ろし方がわかんねぇ」
「大山一家を閉めるとかは総長の一存では決められないと思いますけど、一年に一度くらい良いことしたいっていうなら、俺にアイデアがありますよ」
「なんだ? それは」
「ふふ……」
大原は小島の案に耳を貸す。ああ、それはいいアイデアだ。彼は即決した。
12月24日。神社には不相応な赤と白のバイクの集団。みんな白ひげまで付けている。いわゆるサンタクロースの格好をしている若者集団、それが今日の大山一家だ。大原は舎弟たちに声をかけた。
「今日で俺は総長を引退する。その引退祝いを兼ねての走りだ。警察署の許可は取ってあるから、みんな気合入れていけよ! 運転免許証は持ったな!」
「うっす!」
大原は意外に舎弟たちがいい笑顔をしていることに気がついた。筋金入りのワルでも、公に良いことをするのに悪い気はしないらしい。
「よし! 行くぞ!」
大原の声を合図にバイクへとまたがるサンタたち。いつもはマフラー音が騒がしいバイクだが、今日はBGMに鈴の音を鳴らしている。
「お、暴走族……サンタ!?」
歩行者や車の運転手たちが目を丸くする。マンションから何事かと様子を見た父親も、子どもを連れて遠巻きに見ている。トナカイではなくバイクに乗ったサンタ集団が、街をかっ飛ばす。
今日を最後に大原は大山一家を引退する。チームの今後は未定。
ーー悪くないクリスマスだな。大原はそう思った。
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