第5話

船を買ったのはいいがすることがない。

前の船は売ってしまったしドックの方も造船会社の技師がやってきて色々やっているので何もせずに居座るわけにもいかなかった。

「よし。金はあるしどこかに泊まるか」

そう思って色々ホテルを調べてみる。

「へぇ~。今の財政状況なら色々泊れるけど・・・」

悲しいかなトキノリは庶民である。

結局、借りたのはカプセルホテルだった。

「うん。自分にはやっぱこれぐらいがあってるわ」

適当に今日のご飯を買ってきてベッドに腰掛けながらそれを食べる。

「ふぅ。食った食った。それにしても暇だな」

前は少しでも安全を図るために船の整備をしていたがそれもなくなってしまった。

「うん。久しぶりに小説でも読んでみるか?」

そう言って端末で小説投稿サイトにアクセスする。

いくら技術が進化しても娯楽というのは廃れない。

仕事をはじめる前は読書家だった。

だが、仕事を始めるとそんな暇はなかったのだ。

「おっ。この先生。まだ書いてたんだな」

好きな作家がまだ現役で活動しているとわかって嬉しい気持ちになる。

「へぇ。最近、コンテストに受賞したのか。ちょっと読んでみよう」

そう言ってトキノリはその先生の作品を読み始めた。

「ふぅ。面白かった。やっぱこの先生の作品は最高だな」

気が付けば1週間はあっという間に過ぎていった。



「今日が船の受取日だったな。ドックに行ってみるか」

トキノリはうきうきした足取りで契約したドックに向かう。

ドックには買った船が待っていた。

「あっ。ハラヤマさん」

そう言って声をかけてきたのは造船会社の社員だった。

「わざわざ来てくださったんですか?」

「はい。これだけの船を買ってくれた方ですから」

「整備の方はどうですか?」

「ばっちしですよ。技師が張り切りましてね。当面、必要となる修理資材も満載です」

「それはありがたいですがいいんですか?」

「はい。その代わりと言ってはお願いがありまして」

「お願いですか?」

「実際に乗ってみた感想とかデータを提供してほしいんです」

「なるほど・・・。そう言うことでしたらお引き受けします」

「ありがとうございます。こちら契約書です」

トキノリは渡された契約書を確認する。

驚いたことに情報提供料も発生するようだ。

「情報提供料も貰えるんですか?」

「はい。わが社としてもこの規模の船のデータは貴重です。その貴重なデータをいただけるならと」

「そういうことですか。どこまで貢献できるかはわかりませんが・・・」

トキノリの職業は輸送屋だ。

そのデータがどこまで役に立つかはわからないが今後は維持費がどれぐらいかかるかはわからない。

収入が少しでも増えるならと快く契約書にサインした。

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