第4話 バールを担いで狩りに出る
開幕ゴブリンとの戦闘があった翌日、俺は一日がかりでゴブリンの死体の片づけをした。
それはもう大変だった。血汚れは一日放置でこびり付いてるし、ゴブリンの死体は重いしで最悪だった。
あまりに家から出るのが嫌で、ゴブリン肉をちょっと焼いて食ってみようとしてみたくらいだ(肉が臭すぎて断念したけど)。
で、それで精力尽き果てて、その日はもう寝た。
その翌日、俺は流石に断食五日目に耐え兼ね、ついに外に出た。
向かう先は近くのコンビニだ。空腹で血走った目をした俺は、ガラスをバールで割って突入し、腐敗臭に耐えつつ缶詰を大量確保して家に戻った。
で、しばらく缶詰で凌いでの今。俺は再び、食糧難に陥っていた。
―――――――――――――――――――――――――――
251:名前:隔離ニート
また外出ようかなって思ってんだけどなんかアドバイスない?
252:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
イッチお前生きとったんかワレェ!
253:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
ゴブリン料理実況ニキやんけ
お前すでにこのスレ、まとめサイトに載せられとるぞ
254:名前:隔離ニート
は? 何で
255:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
ザコスキルなのにゴブリン軽く殺してるわ
殺したゴブリンをどうにか食おうと試行錯誤してるわで
変な奴がいるってまとめサイトにあげられてた
256:名前: ダンジョンマニアの名無しさん
運良いよなぁ、イッチ。ゴブリンもバールで勝てるようなザコは少ないんやで
257:名前:隔離ニート
ふーん。アフィカス~見とるか~
258:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
草
259:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
良い性格してるわこいつ
260:名前:隔離ニート
いや違うって。また食料尽きたから、また家出るつもりなんだよ
261:名前:隔離ニート
何かアドバイスくれ
262:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
またコンビニ漁ればよくね?
263:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
あー、でも隔離地域っつったら結構前からだし、コンビニ探しても大半が死んでそう
263:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
野生動物狩りどうよ。モンスよりは楽だろ
264:名前:隔離ニート
そんな簡単に野生動物っていんの?
265:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
隔離地域は色々めちゃくちゃになってるし、道端で出会うこともあるって聞くぞ
266:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
まぁ野生動物もまったく危険じゃない訳じゃないけど、モンスよりはずっとマシ
267:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
そういうもんか。了解
ちょっとほっつき歩いてみる
―――――――――――――――――――――――――――
「よし。野生動物狩りだ」
俺は心を決めて、カバンにバール、包丁を装備して家から出た。
外出にあまり抵抗感がなくて、俺も成長したなぁ、と我ながら誇らしくなる。
「俺、この一週間で、もう三回も玄関ドア開けてる……!」
一回目はゴブリンの所為で外出できなかったが、二回目はコンビニに行けたし、今回もそこまで億劫じゃなかった。
これは……来てる。来てるぞ……! 俺の真人間更生の風が来ている!
そんなことを考えながら、少し歩く。
歩きながら、周囲を観察する。
この数年、ほとんど家から出ずに生活していた。食事は出前を取ってたし、ゴミ出しもほぼアパートから出ずにやっていた(思えばゴミ収集車が来ないからか山になってたが)。
だからか、数年ぶりに見た街並みは、見るも無残に荒廃して目に映った。
ところどころに残る破壊痕に、動物だかモンスターだか分からない骨が散らばっている。道路は植物に押し負けひび割れている箇所がちらほらと。
「アポカリプスじゃん」
俺はうわー、と呟きながら歩く。
流石は隔離地域だ。人が住めないと言われるだけはある。というか確実に俺以外住んでいない。これはそういう光景だ。
「……数年前に、何かアパートが騒がしいなって時があったんだよなぁ……」
恐らくは避難でワチャワチャやっていたのだろう。人が大勢動くと騒がしくもなる。
だが俺はその時に動かなかった。何故ならビビリのヒキニートだったからだ。
その結果がこれなのだから、ニートが人生じり貧になるのも納得というもの。
「にしても、野生動物狩り、ねぇ……」
スレ民も随分軽く言ってくれたもんだ。
野生動物とか全然勝てる気しないが、と思うが、常識のない俺には物事の正しい力関係が分からない。
「んー……多分、スキルって言うのは、ザコスキルでもかなり強くて、野生動物くらいなら簡単に倒せる、ってことなのか? で、モンスターはそれよりもさらに強い、とか」
図的にはこんな感じ↓
ヒキニート俺<野生動物<雑魚スキル持った俺<普通のモンスター<普通のスキル
これなら納得がいく。ザコスキルでもまぁまぁ強いんだなぁ、みたいな。
なら、野生動物にはあまり警戒しなくてもいいのかもしれない。例えば―――
「家くらいデカい鹿、とか……」
マイペースに歩いていた俺の前に現れたのは、文字通り、家ほどのサイズの巨大な鹿だった。
「ひゃ……おっきい……」
俺はそのあまりの圧迫感に、幼女のような言葉を漏らしてしまう。
すさまじく巨大な鹿だった。家の屋根の高さに頭がある。うおおおお、デカいぞデカすぎる。
俺が見上げるほどの巨躯。しなやかな体つき。
それ以上に特徴的なのは、角から蹄にかけて、梵字? のようなものが入っていること。
昔、ネットで写真を見たことがある。海外の鹿は家くらいデカくなるのだと。
体に変な文字が入っているが、色んなことがある世の中だ。多分変な宗教団体の飼育下の奴が、逃げ出しでもしたのだろう。
「……これ、狩れるか……?」
物陰に隠れて思案する。全然できる気がしない。しかし、希少なタンパク質であることには変わりない。
俺は少し考え、スレを開く。
―――――――――――――――――――――――――――
284:名前:隔離ニート
何かクソデカい鹿見つけた
これ狩った方がいい?
285:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
草
イッチ、早速野生動物見つけたのか
286:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
やったれやったれ! ザコスキルでもまぁまぁ戦えるはずだし
少なくとも、剣とか槍じゃなくてもまともに攻撃は通るはずだぞ
287:名前:隔離ニート
でもマジでデカくてさ……
ちょっと勇気出ないってこれ
288:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
勇気ねぇ……。でもここで勇気出さんかったら、イッチ飢え死にやで?
289:名前:隔離ニート
それもそうか……分かった。
じゃあここは安価だ。安価が俺に勇気をくれる
ということで、>>295 頼んだ
290:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
安価来たぁ!
291:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
まぁいきなりニートに鹿を狩れって言っても尻込みするわな
血抜きとかの知識もないだろうし
292:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
バールで鹿をどうすんだ? 殴り殺すのか?
293:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
奇襲だ奇襲! 鹿を逃がすな! 鹿って結構臆病だから、ちょっと脅かしたらすぐ逃げ出すぞ
294:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
いや、鹿型モンスだったら、挑んで返り討ちの可能性もある
石を投げて反応を見よう。鹿が逃げるなら追って、ヤバそうならイッチが逃げる
295:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
バッカ! イッチが欲しいのは勇気だぞお前ら! 勇気を与えるんだよ!
ということで……正面突撃で行け、イッチ。お前なら勝てる
296:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
>>295
鬼wwwwwwww
297:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
>>295
一番勇気のいるやり方でいきやがったwwww
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スレ民の決定に、俺は渋面になる。
こいつらぁ……! 他人事だと思いやがってぇ……!
しかし、安価は絶対。安価は絶対なのだ。
俺は深呼吸して、挑むことに決める。泣きそうなくらい怖いし、度胸は出ないが、やるしかない。
俺はせめて、と思い、こっそり鹿を隠し撮りした。画像をアップしてから一言残し、反応も見ずにスマホをしまう。
さぁ、度胸試しだ! 鹿狩りだ! クソデカ野生動物鹿狩り、行くぞオラァ!
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298:名前:隔離ニート
じゃあ行ってくる。ちなこれが肝心の鹿な
こんなデカいのに挑めとか……お前ら覚えてろよ!
↓
URL:https://www.shashin_keisai.com/××××
299:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
ファッ!?
300:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
止まれ! 止まれイッチ! それモンスター! 挑むな逃げろ!
301:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
ダンジョン配信で見たA級モンスターやんけ! 神従獣ムリガンタラや!
302:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
絶対死ぬぞおい! 今すぐ逃げろ!
303:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
ひぇ……クソデカいし、この全身の梵字怖すぎやろ
304:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
スレ民の反応的にイッチ死にそうやけど、A級モンスターってどんだけ強いん?
305:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
>>304
冒険者の上位1%に入るA級冒険者が五人以上のパーティで挑む強さ
306:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
あの……イッチ反応ないんやけど、もう挑んだ? バトル始まっちゃった?
307:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
これは……イッチ死んだな……
308:名前:ダンジョンマニアの名無しさん
イッチ……いい奴だったよ……
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