第5話 We will(5)
そのつぶやきを聞いて斯波はハッとした。
「え? なに? なんかあった?」
そもそも自分にピアノを聞いて欲しいなんて
竜生が何を考えているかわからなかった。
「・・こんくーるって、すごいの?」
竜生の口から出た言葉は
さらに意外なものだった。
「コンクール???」
「・・いっしょに、ピアノならってる。 ルイちゃんが。 こんどコンクールにでるって、」
竜生はポツリポツリと話し始めた。
竜生は祖母の真理子の紹介で彼女の音大の講師の人から特別にレッスンを受けている。
それは何人かの同じくらいの子供たちと一緒だ、と聞いたことがある。
「まえに。 まりこさんがママに言ってたのきいちゃったんだ。」
「え?」
真理子が何気なく言った言葉だろうと思った。
『竜生はコンクールに出さないの?』
それを言われた絵梨沙は
『・・コンクールなんて。 まだまだよ。』
笑ってそう返した。
『でも、あなたが竜生くらいの時はもう、全国レベルのコンクールに何度も出てたし、』
『・・あんまり急ぎたくないの。 竜生がこれからピアノを続けていってもっと上を目指したいって言うようになるかもしれないし。 そしたら考えたいの。』
その会話を竜生は聞いていた。
「さいしょはよくわかんなかったんだけどー。 こんくーるって、うまい人がうけるんだよね?」
竜生はつたない言葉で質問を続けた。
「・・まあ、そうだけどー。 竜生は、コンクールに出たいの?」
「だって。 ルイちゃんより、おれのがうまいもん!」
竜生は椅子にこしかけて足をぶらぶらさせながら不満そうに言った。
「ママに言ってみたら?」
「・・だから。 まりこさんにまだって言ってたから!」
・・そこに拘ってるらしい。
「ほんとにおれのがうまいのに。 だから・・しーちゃんにきいてもらいたかったのに、」
それを確かめるために。
斯波はふっと笑った。
初めて竜生と会ったときはまだまだ赤ん坊で、
今の翔くらいだったのに。
なんだか月日の流れをしみじみ感じてしまった。
「ねえ、しーちゃんからママに言ってくれない??」
しまいにゃ、そんなお願いをされて。
「はあ? おれが???」
「なんかさー・・。 いっちゃだめみたいなかんじでー、」
竜生は何かを感じているようでそれが言えずに悶々としているようだった。
竜生の小さなお願いを断りきれなかった。
家でおもちゃで腹這いになりながらヨダレを垂らしながら遊んでいる翔を見て
こいつも。
ピアノやりたい
とか言い出すんかな???
などと考えてしまった。
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