第2話 We will(2)

竜生は3つになる前くらいからピアノに興味を持って



見よう見まねで弾くようになった。



小さいころは絵梨沙が教えていたりしたが、今は母が紹介してくれた聖朋音大の先生に週に1度レッスンをしてもらっている。



何より竜生がピアノを弾きたがったし



特に弾くようになってほしいと思っていたわけではないけれど



絵梨沙は自分がそうだったように



生まれた時からピアノがある生活でいると、いつの間にかそうなってしまうものだと思っていた。




それでも妹の真鈴は全くピアノに興味を示さないのは



同じ兄妹でも違うものだ、と不思議だった。



小さいころはやんちゃだった竜生だが、ピアノを真剣にやるようになってからだいぶ落ち着いた。



子どもがピアノをやることについては真尋と特に何も相談したことはなかった。



やりたきゃ、やりゃいいじゃん



と、真尋は相変わらずで、それでもたまに家にいるときは竜生と一緒にピアノを弾いたりして楽しそうだった。



そんな楽しいピアノのはずなのだが



今、ピアノに向かっている竜生の顔は怖いほど真剣で



なんとなく近寄りがたいものさえも感じた。



生まれたころは絵梨沙に似ているとよく言われていたが、今は表情や仕草などは、ハッとするほど真尋に似てきた。



身体も大きくて、中学生?とバスに乗る時に怪しまれてしまったこともあるくらいだ。



なにより



このピアノを弾く姿が



あまりに真尋にそっくりで絵梨沙は声を掛けられなかった。


「ねー、ママ。 りゅうせいのことおこらないの?」



真鈴の言葉にハッとした。



「・・ん。 ま、悪いことしてるわけじゃないから。 いいわ。 お部屋に戻りましょう、」



絵梨沙は真鈴の手を取って竜生には声を掛けずにまた部屋に戻って行った。



「ほら、ちゃんと頭を拭かないと風邪をひくわよ、」




風呂上りにろくに拭かずに、ゲームに没頭する竜生に絵梨沙は注意した。



しかし全く無視でゲームを続ける。



最近、こういうことが多くなった。



何かを注意すると、うっとうしそうな顔をして絶対に従わない。



「竜生、」



絵梨沙は少し声を荒げるように声をかけた。



「うるせーなー、」



竜生は投げやりにそう言った。



その言葉にカチンときて



「うるせーなーってなによ! 最近、注意するとそうやって膨れて、言う事きかないんだから!」



思わず怒ってしまった。



「おれの勝手だろっ、」



竜生はゲームをやめてタオルをその辺に置きっぱなしにして立ち去ろうとした。



「竜生!」



絵梨沙は大きな声で呼び止めた。



「身の回りのことはきちんとしなさい。 自分のことはきちんと自分でしなさい!」



「ちゃんとやってんじゃん。 頭拭くとか拭かないとか、そんなの関係ない!」



何だか言い回しまで真尋に似てきたようで、絵梨沙は悔しくなって



「風邪引いたら大変だって言ってるでしょ!」



また声が大きくなってしまった。



その時、柊が泣き出した。



「泣いてるよ~」



竜生はそう言ってスーッと自分の部屋に入って行ってしまった。



「ちょっと! 竜生!」



絵梨沙はぎゃんぎゃん泣いている柊を放っておくわけにもいかず、



竜生にも逃げられ、



全くどうしようもない事態にイライラが頂点に達した。



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