My sweet home~恋のカタチ。28--chartreuse green--
森野日菜
第1話 We will(1)
「ごちそうさま、」
竜生は食事の席から降りた。
「え、もういいの? いつもはもっと食べるのに、」
祖母のゆかりは首をかしげた。
「もうおなかいっぱい。 ピアノ弾いてくる、」
まだ妹の真鈴はもりもりとごはんを食べていたが、竜生は半分くらいしか食べなかった。
絵梨沙が仕事の日は子供たちのスクールの送り迎えはゆかりかお手伝いさんがしていて、今日は半日だったので祖父母の部屋で昼食を採っていた。
末っ子の柊は、真尋宅のお手伝いさん兼ベビーシッターがいてくれているので、この二人の世話がゆかりの仕事だった。
長男の竜生はもう9歳、妹の真鈴は6歳。
二人はここから歩いても15分ほどのインターナショナル・スクールに通い、そこでの生活では二人はほぼ英語を話す。
小さいころからウイーンやNYの真尋の演奏旅行についていくことも多く、長いバケーションの時は海外で過ごすことが多い二人が外国語を忘れないように、と考えて通わせることにした。
特に父親の真尋とは1年のうち半分以上は離れて過ごすので
もう北都家全員で子供たちを育てているようなものだった。
「すみません、おそくなってしまって。」
絵梨沙が仕事から戻ったのは夕方だった。
産後、少しずつだが仕事を始めるようになった。
「ママ、みて~~、これつくった~~」
真鈴がおりがみでつくった魚を見せた。
「あ、上手になったねー。 あれ? 竜生は?」
「それがねー。 お昼ご飯もあんまり食べないで。 ピアノ弾くって行っちゃったの、」
ゆかりは困ったように言った。
「どこか具合悪いのかしら、」
絵梨沙は心配になって、自分たちの部屋に戻ってみた。
「え? 竜生くん? こっちに戻って来てないけど、」
ベビーシッターの美和子は柊にミルクをあげながらそう言った。
「え?」
びっくりしてこの広い家中を探した。
「ねえねえ。」
そんな絵梨沙に真鈴はスカートのすそを引っ張った。
「え?」
「きっと。 あそこだよ、」
真鈴はにっこり笑った。
地下の真尋のピアノ室。
二重扉の一つ目を開くと、音が聞こえてきた。
もう一枚のガラス扉の向こうに竜生が父のピアノを弾く姿が見えた。
ここは鍵がないと入れない。
鍵は自分たちの寝室にある。
その鍵のありかを竜生に教えたことはない。
「・・どうして、ここに、」
絵梨沙は不思議がった。
竜生の弾くメンデルスゾーンを聴きながら、考えを巡らせていた。
「あのね。 かぎ、りゅうせいがまえにママたちのへやからみつけたの、」
真鈴がその謎を教えてくれた。
「え、ほんとう?」
「うん。 まりんはねー。 ママにおこられるよってゆったんだけど。 りゅうせい、いうこときかなかったの、」
真鈴はすっごい秘密を打ち明けるように、ちょっとオーバーにそう言った。
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