第16話 堀優季
——
俺の隣の席のエロギャルだ。
いつも男子や自分の見た目に近いギャルたちと楽しそうに会話している。
喋ったことはないが、隣の席ともあり、容姿はよく目に入る。
耳にはピアス、胸元にはネックレス、シャツのボタンを二、三個開けているせいか、彼女のふくよかな谷間がよく視界に入る。
ギャルと言えども昔で言う黒ギャルではなく白ギャル。
服装やアクセサリーなどの身につけ方がそれに当たる。
そもそも学校にアクセサリーをつけてくるなよとも思うが、ギャルとはそういう生き物である。
名前は知らなかったが、先程彼女の母が発言していたのを聞いて、堀優季という名前だと知った。
そんな俺が堀さんに連れてこられたのは、彼女の部屋だった。
普通リビングだろと思いつつもなぜか、彼女の部屋だった。
「——ちょっとあんま見渡さないでくれる?」
「いや……女の子の部屋に入ったの始めてだし……」
「これだからドーテーは」
「ってことは堀さんは非処女なわけだ」
「んなっ!? ぶつぞお前!」
処女らしい。
これもギャルあるあるだ。陰キャや童貞に向かっては色々上から目線で言うが、実は自分も処女だという。陽キャという部分だけをひけらかして中身はピュアなのだ。
「それで、俺はなぜこの部屋に?」
「私が聞きたいよ。お母さんがお前と話せっていうから連れてきただけ」
「ああ、俺の母さんと友達らしいね」
「……てかお前陰キャのくせになんで普通に喋れるんだよ」
俺が普通に話していることがおかしいのか、堀さんは目を細めて言う。
「いや、陰キャだって喋るだろ。教室で目立ってないだけで……」
それに最近は飛鳥のこともある。
彼女以上に可愛い人は学校には存在しないため、なんだか他の女子にも気圧されずに話せる気がするのだ。
「ふーん。ま、どうでもいいや」
こいつ……。
どうでもいいなら聞くなよ。とも思うが、下に見ている相手にはこういう態度なんだろう。
「それで、なんで髪なんか切ったのよ。随分イメチェンしたじゃん」
「あ〜……ちょっと身だしなみ整えてみたくて……どう? やっぱ変?」
「なんで私に聞くんだよ……………別に変じゃねえけど……」
おお……少しだけでも褒めてくれた。
仲良くなれば実はギャルでも優しいというのは本当だろうか。
「はぁ……てかさ。ちょっと制服」
「な、なんだよ……」
すると何を思ったのは堀さんが俺がいる場所まで近づく。
そしてそのまま俺の制服に手をかけたのだ。
「シャツとかインしすぎだし上のボタンだって丁寧に閉めなくて良いだろ。あと中の柄Tはやめろ。シャツから透けてキモい」
色々と俺の服装に対して指摘して、シャツに至ってはわざわざ手で直してくれた。
近くにあった等身大の鏡を見てみる——少しだけ雰囲気が出た気がする。
「ふむ。いい感じじゃん」
「堀さんって、結構優しいというか、面倒見が良いんだね」
「チッ……お前みたいな奴が髪型だけどうにかしてんのに違和感あんだよ。やるんだったら服装もどうにかしろよ。ま、お前みたいな真面目ちゃんが制服着崩してるのもちょっとおかしい気もするけど……」
なんだか色々とトータルコーディネートされているみたいだ。
将来美容師かファッション系の仕事にでも就くのだろうか。
と、思ったのだが、ふと机の上にあった本が目に入った。
『保育士になるために必要な心得24』
「保育士になりたいのか……子供好きなんだな」
「っ!? お前何勝手に見てんだ……!」
すると恥ずかしかったのか、顔を赤くしてその本を持ち書棚へと差し込んだ。
「クソ……私だって男を入れたのお前が初めてだって言うのに、なんでこんな……」
え、初めてなの?
俺みたいなやつが初めてを奪ってもいいの?
「リビングあったじゃん」
「あっちは親のスペースだから嫌なの。私の部屋なら汚してもいいから」
「何その自己犠牲みたいな考え方」
「あー! お茶出すの忘れてた……クソ……めんどくせえ……あ、これでいっか」
会話の途中なのに俺にお茶を出すことを思い出したのか、カバンをゴソゴソし、そこからペットボトルの水を取り出した。
お茶ですらなかった。
「くれるならもらっておくけど……」
俺はペットボトルのキャップを開けて一口だけゴクリと水を飲んだ。
「…………あんた、それ私が飲んだ水なんだけど……」
「? そうなんだ」
だから何だというのだ。いつも母さんの水は飲んでるが?
「〜〜っ! お前……ムカつくやつだな……か、間接……だろうが!」
「あぁ、間接キスか……こういう感じなんだ」
なぜだろう。飛鳥じゃない人のはあまり興奮しない。
俺だって女子のものだとわかっていたはずだ。母さんとは違うって。
なのに、それほど感情は動かなかった。
「クールに振る舞いやがって……」
終始イライラしていた堀さん。
そこで俺は思いついた。口は悪いが結構優しい堀さん。彼女なら俺の願いを叶えてくれるのではないかと。
「ねえ堀さん。明日一緒にお買い物付き合ってくれない? 俺自分に似合う服わからないから一緒に見てほしいんだ」
俺は決意してお願いした。
「!? お前ケガインのくせに何言ってんだよ! 私をデートに誘ってるつもりか!?」
その言葉を聞き、動揺の色を隠せなかった堀さんが、俺に近寄り怒鳴ってくる。
「誘ってないけど……ただちゃんとした服が欲しいからお願いしてるだけで……ダメ? 無理なら良いけど……」
「ダメとは言ってねえ! ただ、お前がムカつくんだよ!」
結局どっちだろうか。
でも断ってないということは、オッケーということなのか……。
「怒らせたなら謝るけど俺はこういう性格だから、ずっとこうだよ」
「………………はぁ。お前と張り合うの疲れてきた。私だけバカみたいじゃん……」
しかし次の瞬間、怒りが急に収まったのか、堀さんは大きくため息をついて、表情が柔らかくなった。
「てことは?」
「……明日の十三時。駅前に来い……ったくなんで私が……」
「え!? 行ってくれるのか。堀さんありがとう。ほんと助かったよ……」
「てかお前何か隠してるだろ……明日それも聞かせてもらうからな」
「さあ。俺みたいな陰キャの話、エロギャルには興味ないでしょ」
「エロって言うな!」
また怒った。
まあこれはわざとだが。
言われるのが嫌なら、恋愛対象でもない人の前で、それだけの谷間を見せるのは辞めた方が良いと思う。
俺がヤバいやつだったら、手を出していたかも知れないじゃないか。
こうして明日の土曜日、日曜日の飛鳥とのデートのための服装選びを堀さんとすることとなった。
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