第15話 隣のエロギャル
「——デートに行きましょう!」
キスの話をした翌日のことである。
突如飛鳥からそう誘われたのだ。
彼女的にはまだ俺たちは恋人らしいことはしてないそうだ。
だから外でデートしたいとのことだった。
学校帰りに一緒に歩くわけではない。
それなら良いかと思ったのだが、俺の見た目が問題だ。
適当な髪に適当な服しか持っていない。
このままデートに行っても良いのだろうか。
「日曜まで待ってくれるか?」
平日と土曜日までになんとかする。
じゃないと美少女に顔向けできないのだ。
◇ ◇ ◇
そうして金曜日の学校帰り。
母さんからもらった金を握り締め、人生初の美容室へと向かった。
場所は母さんの知り合いがやっているお店。
小さな個人経営の美容室だ。
『シザーハンズ』
いや、わかるのだがもうちょっと優しいネーミングなかった?
そう思われる店名だった。
「失礼しま〜す」
恐る恐る店内へと入る。
「あ! もしかして
香苗とは母さんの名前だ。
つまり、この人が母さんの友人ということになる。
「黒川悠です。今日はよろしくお願いします」
「あらあら。前髪が重いわね。良い感じにさせてもらうわね」
「はい。良い感じでお願いします」
母さんの友達は明るくて陽キャだった。
ネームプレートには『堀』と書かれてあった。
あれ、この名前どこかで……。
「——香苗とはね、高校から大学まで一緒だったの。子供ができてからは会うことは少なくなったけど、今でもたまにカットしに来ているのよ」
「へえ……」
母さんの昔話はあまり聞かない。
新鮮だ。
「あの香苗の子がこんなに大きくなってるなんて……不思議ね」
「そりゃ僕も人間ですから。何もしなくても太陽さえ浴びれば成長します」
「ふふ、何それ。光合成? あなた面白いわね」
「いえ。これは『ソーラーマン』という漫画があってですね……って、今の話は忘れてください」
「なになに? 私、人の趣味には寛容よ。話してちょうだい」
「じゃあ——ソーラーマンがなぜ太陽を浴びるだけで成長するかと言うことなんですが——」
堀さんはかなり話しやすかった。
これが陽キャの実力か。
◇ ◇ ◇
「あら。寝ちゃったのかしら? 可愛い子ね」
いつの間にか椅子に座ったまま寝てしまった悠。
寝ている間にもカットは進み、終盤に差し掛かっていた。
そんな時だ。
——カランカラン。
入口の扉の鈴が鳴った。
「ただいま〜」
「あら、
入ってきたのは堀の娘である優季だった。
制服姿で女子高生だとわかる服装だ。
ギャルっぽい雰囲気で制服を着崩してお洒落している。
「あ、お客さんいたの。ごめんね」
「寝てるから大丈夫よ。でも静かにね」
「うん……てかその制服うちのじゃん」
優季は悠の制服を見て、自分と同じ学校に通う生徒だと認識した。
「そう言えばそうね」
「——は。え……」
しかし、悠の顔をよく見た優季が何かに気づく。
「どうしたの?」
「こ、こいつ。私の隣の席の怪我陰キャじゃん!」
「なにそれ」
「入学式からついこの間まで事故って怪我してて学校に来てなかったやつ!」
悠と優季。
実は二人は隣同士の席だった。
ちなみに一度も会話をしたことはない。
「へえ。この子が……。でも治ったみたいね」
「うん、最近松葉杖じゃなくなってるの見てたからわかるけど……」
「この子のお母さん、私と同級生なのよ」
「えっ!? マジで?」
新情報に驚く優季。
ただ、それだけだ。
「マジで」
「へ、へえ〜」
「せっかくだし、切り終わったらこの子とお茶でもしてあげなさい」
「な、なんで私がケガインと遊ばなきゃならないんだよ!」
母におかしなことを言われ拒否する優季。
しかも怪我陰キャをケガインと呼んでいるあたり、友達にも言っていそうなあだ名だった。
「けがいん? まあ、いいじゃない。親になると友達の子供同士が仲良くしてるのを見るのが嬉しいのよ」
「母さんがそう言うなら……」
「お小遣いあげるから」
「マジで!?」
「ええ、マジよ」
「よっしゃあ!」
優季は現金な性格だった。
◇ ◇ ◇
「悠くん……? 悠くん……? 終わったわよ」
「飛鳥!?」
「飛鳥?」
「あ…………すいません寝ぼけてました」
びっくりした。
『悠くん』と、くん付けで呼ぶのは飛鳥だけだったので驚いた。
まさか母さんの友達である堀さんに呼ばれるとは……。
確かに友達の子供なら下の名前で呼ぶかもしれないが、変なところに反応してしまった。
「ほら、鏡見てみてもらえるかしら? あなた髪上げると結構イケメンじゃない? さすがは早苗の息子ね」
「…………え、これが俺、ですか?」
堀さんに言われるまま鏡を見てみた。
すると重たい前髪がなくなっていた。
なくなったのもあるが、一番の理由はワックスによって髪が上げられていたことだ。
いわゆるセンターパートのような髪型だ。
おでこがスースーしていて落ち着かない。
「ちなみに髪を下ろしてもセットできるようにしたから安心してね」
「あ……はい」
「それにしても今までずっとあの髪型だったの? 目も大きくて二重だし……身だしなみ整えたらモテたんじゃないかしら?」
「そ、そんなことはないです。僕は性格が捻じ曲がってて、やばいやつなんです。厨二をこじらせたまま成長した変態なので」
自虐したが、言っている自分が嫌になる。
そうなったのは自分のせいなのに。
「ふふ。変なこと言うわね。自分のこと客観的にわかっている人はそんなこと言わないわ。あなたはちゃんとした人よ」
「いや、母にも変人って言われますし」
「ふふ。それは早苗が変人だからよ。あの子昔から面白い子だったもの」
「ま、マジですか……」
「でもちゃんと結婚できて良かったわ。早苗をもらってくれる優しい旦那さんで」
母さんの知られざる過去を知ったようで驚いた。
息子の前でその母のことを変人だと言うこの人もどうかと思うが、やはり俺と同じく母さんも変人だったようだ。
なら俺という変人が生まれたのは、避けられない運命だったわけだ。
そんな時だ。
奥の階段から誰かが降りてくる音がした。
「——やっと終わったか。ケガイン、こっち来て上あがりな——って、結構良い感じに変身したじゃん」
「は……え!? 隣のエロギャル! なんでエロギャルがここに!?」
こいつは俺の隣の席のエロギャル。
名前は知らん。
いつも制服のシャツのボタンを開けすぎていて、胸元の谷間が見えているやつ。
だからエロギャルなのだ。
「母さんがいる前でエロとか言うな!」
「母さん!?」
「優季は私の娘よ。悠くんと同じクラスみたいね」
「えぇぇぇぇ!?」
似ていない。
いや、顔の雰囲気は似てるか?
それによく見るとおっぱいの大きさも……。
「良いから早くこっちきて! お小遣いがかかってるんだから」
「うぇ!? はっ! な、何するんだエロギャル!」
無理やり手を引っ張られた。
俺は突然のことに状況が掴めずあたふたしたまま、エロギャルの部屋に連れ込まれることになった。
===============
<あとがき>
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