第12話 お礼
放課後、予定通り俺は小森さんに呼ばれていた。
そして、学校で二人きりになるのが嫌だったのか、今は校舎裏の人通りが少ない場所。
既にバドミントン部のジャージに着替えており、これから部活に行くのがわかった。
「……とりあえずお礼言っておくわ。ありがとう」
「飛鳥のことで、だよな?」
「そう、トリトンのこと」
俺と会う時の小森さんはいつもこんな感じで、むすっとした顔をしてる。
お礼を言う時も、躊躇っていた様子が伺えるし、それならわざわざ言う必要もないのにとも思う。
「小森さん、部活大丈夫だったのか? ランニングの途中だったみたいだけど」
「あー、あれは大丈夫。土日で追加練習あっただけだし」
一応ペナルティみたいなのは受けたようだ。
仲が良さそうな部活だったしな。特にあの部長は変人だった。女好きではないかと思うほどに。
「なら良かった。あの時小森さんがいなかったらどうなってたことか……」
「それはこっちのセリフ。あんたが声をかけてくれたから助けられたんじゃん。あの後のトリトンはちょっと大変だったけど」
カラオケ店から出た後、飛鳥はあまり遠くへと動くことができないようだった。
だから俺も小森さんも彼女に寄り添ってしばらく一緒にいたのだ。
しばらくしたら落ち着いたのでタクシーで帰宅してもらった。
「あと、あんたの連絡先教えなさい」
「え……あぁ、わかった」
飛鳥に何かあった時のためへの連絡手段というわけだ。
俺はスマホを取り出し、小森さんと連絡先を交換した。
「じゃあ私行くから」
「あぁ、部活頑張って」
「……言われなくても、わかってる」
「それは悪かったな」
最後、ぎこちない会話のあと、小森さんは小走りで駆けていった。
「──用事は終わりましたか?」
「うわぁぁぁぁ!?」
小森さんがいなくなった途端後ろから声がして振り返ると、なんのそこには飛鳥がいたのだ。
俺は驚きで松葉杖離してしまい地面に尻餅をついてしまった。
「悠くん大丈夫ですか? やっぱり私がいないとダメですね」
「お前がいたからこうなったんだろ……なんでここにいるんだよ」
「浮気調査です。燕ちゃん変なことしないか見張っておかないと」
「俺はそんなことしない」
「ふふ。わかってます。でも気になっちゃったんですからしょうがないですよね?」
飛鳥は俺を支えたあと立つのを手伝ってくれた。
それはそうとこれはもうストーカーではないだろうか。一体どこに隠れてたんだよ。
「来週から中間テストが始まりますけど、悠くんは大丈夫ですか?」
心配そうに飛鳥が聞いてくる。
もちろん大丈夫ではない。一ヶ月のアドバンテージはさすがに大きすぎる。
しかも学校に通いはじめたと思えばいきなり中間テスト。やってられるわけがない。
「まあ、なんとか大丈夫だ」
「わかりました! では今日から一緒に勉強しましょうっ!」
「話聞いてた!?」
俺、大丈夫だって言ったよな?
こいつ、最初から俺と勉強したくて質問しただろ……。
「では、今から悠くんのお家に行きましょう」
「お前なあ……」
ただ、正直勉強を教わるのはとても助かる。
クラスでは誰にも教えてなんて声をかけられないし、他のクラスの生徒で知り合いなんて飛鳥くらいしかいない。
俺はこのチャンスを逃せばテストの結果は下位になることは確定だ。
だから答えは自ずと——、
「まあ、教えてくれるなら、ありがたく教わるよ」
「ありがとうございますっ」
普通は俺が感謝するんだけどな。
飛鳥はいつもどこかおかしい。
◇ ◇ ◇
「——そういや、中学での成績はどんな感じだったんだ?」
俺の家の部屋にて。
テーブルの前に座り、教科書とノートを並べて勉強しているなか、飛鳥の成績が気になり、そう聞いてみた。
「学年では、大体五位くらいだったと思いますけど……高校ではどうなるかわかりません」
「お前……頭も良いのか。非の打ち所がないな」
顔も良くて頭も良くてお金持ち……それでいて性格も……性格も……こっちは良いのかどうかよくわからないな。
好き好んで俺と関わるくらいだ。普通ではない性格をしているとしか思えない。
「そういう悠くんはどうなんですか?」
「大体一位か二位だったけど……」
「ええええええっ!? 嘘です! 嘘ですよね!?」
飛鳥は俺の成績が思いの外高かったことに驚いたのか、嘘とまで言い出す。
ナチュラルにディスりやがって……。
「俺みたいな日陰者が生きていくには勉強しかないじゃねーか」
「ほ、本当なんですか……?」
「そうだ」
すると飛鳥は目を輝かせて、俺を見つめてきた。
「悠くんの新たな魅力を発見しました。まさか、頭も良かったなんて……!」
「頭が良いんじゃなくて、勉強してただけ。他にやることはゲームとか漫画読むくらいだからな」
本当なら勉強すらやらなくても良かったかもしれない。
でも、友達もできなかった俺が自分の存在価値を出すには勉強しかなかったのだ。
好成績を出したからといってもそれで友達ができるわけではない。
結局は自己満足の範囲は出なかったわけだ。
「じゃあ一ヶ月分の勉強を取り戻したら、すぐに私も超されちゃいそうです」
「さあ、どうだかね。中間テストは酷い結果になりそうだけど」
すると飛鳥はなぜか「うー」と唸りながら何かを考え込んだ。
それが終わると俺に向かって、
「では! 私この一週間本気で教えますから。学年の二十位……いや十位いないを取らせることができたら、何か一つ私の言うことを聞くというのはどうでしょう!」
「なんで俺が良い結果出したらお前が……って、そうか。確かに合ってるには合ってる。ご褒美か……」
俺も少し考えた。
この一週間で正直どれほど変わるかわからないが、学年で十位というのはまず現実的じゃない。
しかも言う事を聞くなんて絶対に面倒くさい話になること間違いなしだ。
「まあ良いだろう。さすがに十位は難しいだろうからな」
「手を抜いたら怒りますからねっ。絶対にては抜かないでくださいねっ」
圧が強い。
どれだけご褒美が欲しいのやら……。飛鳥へのご褒美……言われればしてやらないこともないのに。
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