隣の席の三田くんは、もしかするとサンタクロースかもしれない
神宮 筮
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サンタクロースと言えば一般的にクリスマスになるとトナカイの引くソリに乗って夜空を駆け回りながらプレゼントを配る優しいおじさんのことだが、その実態は大人の謀りによって大半の子供達が実在すると信じ込まされている架空の存在である。子供達はいつしかその正体が自分の親であると知り、仕組まれた夢から覚め、また一つ大人になる。かくいう僕も例に漏れず、とっくの昔にサンタ信仰を卒業し、今は普通の中学一年生としてそれなりのリアリズムの中を泳ぎながら生きている。しかし最近、その認識が全て誤りであったとする可能性が浮上した。入学してから最初のクラス分けで隣の席になった男子生徒、
なぜ僕がそう思ったのかというと、まず名前。三田聖十郎。もうこれ
さらに怪しいことに、三田くんはほぼ毎日、学校帰りにおもちゃ屋に寄っている。だが何かを購入したところは見たことがない。これも、子供たちの欲しがるものをリサーチし、プレゼントの下見をしていると考えれば合点がいく。
やはり、三田くんの正体はサンタさんだろう。だとしたらどうする? 正面から「君ってサンタさんなの?」と聞いても答えてはくれないだろう。まてよ? 彼が本当にサンタさんだとしたら、彼の一存で僕にプレゼントを渡すことも可能。そのためには僕が《いい子》と判定されなければならない。つまりは《いい子》と思われるよう振る舞う必要があるということだ。お利巧なフリは得意だ。なんだかワクワクしてきた。三田くんが学校の友達と仲良くしているところは見たことがない。浮いているというよりは、人と一定以上の距離感を取り続けているといった感じだ。多分、正体を隠すために。とりあえず当面の目標は、三田君と友達になって僕の株を上げることだ。いい暇つぶしにもなる。面白くなってきたぞ。
X X X X
可能性として、三田聖十朗という存在がサンタさんの世を忍ぶ仮の姿であるとすれば、三田くんの実年齢は僕よりずっと上ということになる。でなければ三田くんはサンタ界の期待のニューホープで、最年少でサンタ資格を取得した神童だったりするかもしれない。そう思うとどう接していいか分からなくなってくる。僕はしばし考え、結局普通に話しかけることにした。下手な考え休むに似たり。正解などどうせ分からない。奇をてらって裏目に出ても馬鹿らしいし、滑稽だ。ということで早速昼休みにお弁当に誘ってみることにした。三田くんは昼休みのチャイムがなると、いつもそそくさと教室を出ていく。僕はとりあえずその後をつけてみることにした。どんどん階段をあがっていき、とうとう最上階までたどり着いた。
……どうしてこんなところに?
三田君は屋上の入り口までくるとポケットから取り出した鍵を使って扉を開けた。屋上は進入禁止のはず。それにどうして三田くんが鍵を持っているんだろう。僕は何か大変な瞬間を目の当たりにしてしまった気がして心臓の鼓動が早まるのを感じた。どうしようかと迷っていると、三田くんが突然こちらを振り向き「来ないのかい?」と言った。
「え、あ、いやっ」
僕がびっくりしてしどろもどろになっているのをよそに、三田君は扉を抜けて屋上へと出て行った。引き返そうかとも思ったが、好奇心が上をいき、僕は速足で階段を上り屋上へ出る。
十二月の寒気に迎えられぶるっと体が震えた。三田くんは近くにあったベンチに腰を下ろし、お弁当を食べる準備をしている。こんなところにいたら絶対風邪ひくだろと思ったが、三田くんはまるで寒さなど感じていないかのように平然としていた。
「範野くん、だよね? 一緒に食べるかい?」
「あ……うん」
正直寒くてしんどいが、これもクリスマスプレゼントゲットのためだと自分に言い聞かせ、今日のところは我慢することにした。三田君の隣に座り、一緒に昼食を取り始める。あっちから話しかけてくる気配はないのでこちらから声をかけてみる。
「えっと、なんで屋上の鍵を持ってるの?」
「なんでかな」
「いや、ここ生徒は立ち入り禁止なんだよ? 見つかったら怒られちゃうよ」
「そうかもね。でも、そうはならない」
「どうして言い切れるのさ」
「さて、どうしてだろうね」
軽くはぐらかされてしまった。三田くんは澄ました笑みのまま、一定のペースでお弁当を食べ続けている。なるほど、掴みどころがないタイプか。こりゃ参った。僕自身、特段会話がうまいという訳ではない。沈黙が続く。するとありがたいことに、今度は三田くんの方から話しかけてきた。
「どうして僕の後をつけてきたの?」
「それは……君と話してみたいと思って」
「どうして?」
「いや、友達になれないかなって」
「どうして僕と友達になりたいの?」
「いやまぁ、なんとなく……」
「ふーん」
え何この地獄みたいな空気? 帰っていい? 寒いし。
僕はすでに三田くんと関わろうとしたことを後悔し始めていた。先生に見つかりたくないのもあり、早々に教室へ戻ろうと思った。そもそも三田くんが本当にサンタクロースだとは限らないのだ。ただの変人かも知れない。もはやプレゼントのことなどどうでもよくなった僕は、最後に一応聞いてみることにした。
「三田くんってさ、もしかしてサンタさんだったりする?」
言ってから気づいたが、だいぶ頭のおかしい発言である。三田くんからすれば、僕の方がよっぽど変人に見えているはずだ。しかし彼は嘲笑するどころか、ピタリと動きを止め真剣な顔つきになった。
「……なんで知ってるの?」
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