第5話
第5話: 予期せぬ出会い
次の日、ユウキとリナは箱庭の模型の調整を終えた後、再び散歩に出かけることにした。昨日の穏やかな時間が心地よく、ふたりは今度は研究室の外に広がる緑地帯を歩くことにした。風は昨日と同じように爽やかで、木々の間を吹き抜ける音が心地よかった。
「こうして歩くのも、たまにはいいですね。」リナが言うと、ユウキは同意するように頷いた。
「自然と触れ合う時間って、意外とリフレッシュできるものだよな。」
リナは少し歩みを速めながら、遠くの風景を見つめた。「私は、こういう場所が好きです。特に静かな場所が。」
ユウキはリナの顔をちらりと見ると、彼女の目が少し遠くを見つめていることに気づいた。その表情には、どこか懐かしさや、過去を思い出しているような雰囲気が漂っている。
「リナ、何か思い出がある場所なの?」ユウキが聞くと、リナは一瞬立ち止まり、少しだけ黙ってから答えた。
「はい。実は、子供のころによく母とここに来ていたんです。母が好きな場所で、よく散歩しながら自然の美しさを教えてくれました。」
ユウキはその言葉に驚き、少し歩みを緩めた。「お母さんと一緒に…」
リナはゆっくりと頷いた。「私の母は、自然を大切にしていて、よくこうして歩きながら、木の葉や風の音、花の香りを楽しんでいました。私もその影響を受けて、この場所が好きになったんです。」
その言葉にユウキは少しだけ心が温かくなるのを感じた。リナの家族や過去に対する敬意が感じられるようで、無意識のうちに彼女のことをもっと知りたいと思った。
「素敵なお母さんだったんだろうな。」ユウキはそう言うと、リナは微笑んだ。
「はい、すごく優しくて、いつも私を見守ってくれました。でも、もう…」リナはその言葉を途中で止め、少しだけ寂しそうに目を伏せた。
ユウキはその様子に気づき、無理に続けることなく、少し空気を変えるように話題を切り替えた。「そういえば、リナ。新しい機械の設計はどう進んでる?」
リナは少し考えた後、元気よく答えた。「おかげさまで、順調です。少し細かい部分が気になるけれど、ユウキさんと一緒に調整したおかげで、だいぶスムーズに進んでいます。」
ユウキはリナの前向きな姿勢に安心し、歩きながら続けた。「それはよかった。もし何か問題があったら、また一緒に解決しよう。」
その時、突然、背後から軽い足音が近づいてきた。ユウキが振り向くと、見慣れない男が近づいてきているのに気づいた。男はすっきりとした髪型で、洗練された服装をしており、目元にわずかに微笑みを浮かべていた。
「おや、ここでお会いするとは思いませんでした。」男はユウキとリナに向かって声をかけてきた。
ユウキはその声に少し驚き、男をじっと見た。「あなたは…?」
男は少し首を傾げながら、にっこりと笑った。「すみません、挨拶が遅れました。私はダンテ、ここで研究をしている者です。」
リナはその名前に少し驚いたように反応し、ユウキに耳打ちするように言った。「ダンテさんは、非常に優れた工学者で、最近、箱庭に関する研究をしているんです。」
ユウキは少し驚きながらダンテに目を向けた。「箱庭の研究ですか?」
ダンテはにっこりと笑いながら、「ええ、そうです。実は、あなた方の研究にも興味を持っておりまして。」と言った。
ユウキは少し警戒心を抱きながらも、ダンテに向かって一歩踏み出した。「それはどういうことですか?」
ダンテは軽く肩をすくめ、話を続けた。「あなたの研究、ユウキさん。機械と自然の融合に関するもの、非常に興味深いと聞いています。私も同じような研究をしており、もしよければ、お互いの知識を交換することができればと思って。」
ユウキはその提案に少し考え込みながらも、リナの方を見た。リナは少し顔を曇らせていたが、やがて静かに頷いた。
「それなら、少し話してみてもいいかもしれませんね。」リナが言うと、ユウキは少しだけ深呼吸をしてから、ダンテに向かって手を差し出した。
「それでは、少しお話ししてみましょうか。」
ダンテはその手を握りながら、にっこりと笑った。「ありがとうございます。では、どこか静かな場所でお話ししましょうか。」
こうして、ユウキとリナは予期しない出会いを果たし、ダンテとの新たな関係が始まることとなった。
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