第4話

第4話: 風の音と共に


ユウキとリナが模型の調整を終えた後、研究室には穏やかな静けさが広がった。箱庭の中で水が静かに流れ、機械の精密な動きが自然と調和し、どこか心地よい空間が広がっていた。ユウキは満足そうに微笑みながら、リナに目を向けた。


「思ったよりもうまくいったな。ありがとう、リナ。」


リナは照れくさそうに笑った。「いえ、ユウキさんがちゃんと調整してくれたからですよ。」


ユウキはその言葉に少し驚き、リナを見つめた。「でも、君のアドバイスがなければ、きっとうまくいかなかったと思う。自然と機械の調和について、君の考え方には感心したよ。」


リナは少し顔を赤らめながら、小さく頷いた。「そんな…私、まだまだですよ。ユウキさんほどの技術を持っているわけじゃないですし。」


ユウキは思わず笑みをこぼした。「でも、君の言葉には説得力があったよ。機械を作る上で大切なのは、技術だけじゃないんだなって、改めて実感した。」


その言葉にリナはちょっと照れた様子で、目を伏せた。しばらくそのまま沈黙が続いたが、ユウキはふと思い立って話を切り出した。


「ところで、リナ。君はどうして自然や機械にそんなにこだわるんだ?あまり話したことなかったよね。」


リナは少し戸惑いながら、ゆっくりと答えた。「私が子供の頃、家の近くに大きな森がありました。そこでは機械を使った仕事をしている父親と、自然と共に過ごす母親がいました。二人はそれぞれ異なる考え方を持っていて、でも、どちらも大切にしていたんです。」


ユウキはその話を興味深く聞きながら、リナの目をじっと見つめた。


「父は、機械で効率よく働くことを大切にしていて、母は、自然の中で過ごす時間が心を豊かにすると言っていた。私はその両方を見て育ったから、どうしても機械と自然を一緒に考えてしまうんです。完璧に調和することが難しいのはわかっているけれど、だからこそ、その間に何か美しいものがあるんじゃないかって。」


ユウキはリナの言葉をじっくりと噛みしめるように聞いていた。リナの過去に触れたことで、彼女の考え方が少しだけ理解できた気がした。


「なるほど、そういうことか。」ユウキはしばらく黙っていたが、ふっと笑みを浮かべた。「リナが言うように、機械と自然を調和させるのは難しいけど、無理に完璧を求めず、少し不完全な部分も受け入れていく。その方が、きっと面白いものができるんだろうな。」


リナは少し安心したような表情で笑った。「はい、そう思います。完璧なものなんて存在しないし、それに、少しの不完全さがまた魅力的なんです。」


その時、研究室の外から風の音が聞こえてきた。窓を開けると、心地よい風が部屋に吹き込んできた。ユウキは窓の外を見ながら言った。


「外も静かでいい天気だな。こんな日には、何か散歩でもしたくなるな。」


リナは窓の外を見て、少しだけ目を細めた。「そうですね、こんな日は気分転換にもなるし、外に出るのもいいかもしれません。」


ユウキはリナの反応に少し驚きながらも、提案を続けた。「じゃあ、ちょっと外にでも出てみようか。少し散歩して、リラックスしよう。」


リナは一瞬ためらったが、すぐに頷いた。「そうですね。少し気分を変えて、外の空気を吸うのもいいかもしれません。」


二人はそのまま研究室を出て、外へと足を運んだ。風が心地よく吹き、木々の間を通る風の音が静かに響いていた。ユウキとリナは並んで歩きながら、特に言葉を交わすことはなかったが、自然と会話がなくても心地よい時間が流れていった。


リナは歩きながら、ふとユウキに言った。「ユウキさん、もし今後、もっと大きな機械を作ることになったら、どうしますか?」


ユウキはその質問に少し考え込みながら答えた。「それは、きっとリナと一緒に作ることになるだろうな。君のアドバイスがあれば、きっと素晴らしいものができる。」


リナはその言葉に少し驚いたような表情を浮かべた。「私が?」


「もちろん。君の考え方がすごく大切だと思うから。」ユウキは真剣な目でリナを見た。


リナは少し照れたように微笑みながら、「じゃあ、頑張りますね。」と言った。


その言葉に、ユウキの胸に何か温かいものが広がるのを感じた。二人の間に、少しずつ確かな絆が芽生えているのだと、ユウキは静かに感じ取った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る