第18話 担保

 みんなでしっかり味わって食べた。

 青かった顔に赤みがさしていく。

「お前料理もできるのか?」

 ハウルがエバ兄に尋ねる。

「お湯を沸かしただけだよ」

 エバ兄は照れる。

 みんなもエバ兄が買ってきてくれた食材と知っているので、女の子だけじゃなくほかの子たちも神様のように崇めている。

 ほんと、食事事情もなんとかしていかなきゃな。

 わたしが持っているのはポイントだけ。

 そのポイントだって使ってしまえばなくなる。

 孤児院は人数が多いから、わたしのポイントだけじゃ長く支援はできない。共倒れしちゃう。


 食べ終わってから、輪になってみんなに話を聞いた。

 夕方前、いきなり男たちが騒々しく入ってきたそうだ。

 そして荒々しく全ての部屋を開けて見て回ったらしい。

 子供たちは驚いて固まったり、泣き叫んだりした。

 院長先生が来て、驚いた声を上げた。

 ダーシは戻ってきたかと尋ねたらしい。

 ダーシ? 一緒に農園に行かれたんじゃないんですか? と院長先生は答えた。

 すると男は、ダーシの悪口を言い始めた。

 仕事を覚えないし、やろうとしない、とんでもない怠け者だと。

 ダーシが? 聞いていて眉根が寄った。

 あの子はとても実直で働き者です。と院長先生は返した。

 でも男たちは言い募る。

 ちっとも仕事をせずに逃げ出したんだと。

 その後、先生だけを他の部屋に連れて行き、少し話して出てきた時、先生は顔が真っ青だったという。

 そして、ダーシを連れてくるか、ほかの働き手を用意しておけ、2日後にまたくると出ていったそうだ。

 ハウルが念の為、みんなダーシを見てないよな?と確かめたところ、誰も見ていないようだ。

 ダーシはちょっと粗雑なところはあるけれど、優しいし、働くことを惜しまない子だった。そのダーシが仕事をしないとか覚えないとか。ましてや逃げ出すなんておかしい。それがわたしたちの総意だ。

 とにかくダーシの無事を確かめたいし、どういうことなのか事情を知りたいと話を終えた。

 眠る用意をして、就寝。

 ダーシが知るところは孤児院と街のみ。それから農家へ行く道。

 そんなことを思っているうちに、いつの間にか眠っていた。


 次の日、身支度を整えていると、エバ兄が院長室から出てくるのを見た。

 ん?

 エバ兄の手に手を絡ませる。

「おはよう、ミルカ」

 院長先生はなんだって?

 わたしは教えてとエバ兄の服を引っ張った。

 察しているのに、はぐらかされる。

「さ、朝ごはんだ。スープがあるからあったまるぞ」

 わざと明るく言ってる。不穏なものを感じた。

 街へ行く時まで待った。

 4人で歩き出した時に、黒板に書いておいた文字を見せた。

ーー先生に何言われたの?

 黒板を覗き込んだファン兄もアドもエバ兄を見上げる。

 エバ兄は小さくため息をついた。

「ダーシの代わりに働く子が必要なんだって。それで行ってほしいって」

「え? ダーシだってまだ見つかってないのに?」

 とはファン兄。

 そんなのだめ!

 首を横にブンブン振っていたら気持ち悪くなってしまった。

「行きたくないけど。この孤児院の評判が悪くなっちゃうと、他の子たちが貰われなくなっちゃうって。ダーシが見つからないままだと約束を破った罰で孤児院を明け渡すことになるって」

 は?

 なんで孤児院からの養子制度で金品が絡んでくるの?

 違約金とか担保があったってこと? おかしいでしょ。

 ここ国営じゃないの?

 なんかきな臭くない?

「ミルカ、ここにシワがよって可愛い顔が台無しだよ?」

 エバ兄がわたしの眉間に指を這わせる。

「大丈夫。どこに行っても俺はミルカ、アド、ファンの兄貴だ。3人のことは院長先生によく頼んでいくから」

 エバ兄に手を引かれて再び歩き出す。

 でも、でも、そんなのおかしいよ!


「あれ、どうした? みんな暗いね?」

「あ、なんでもないです。今日もよろしくお願いします」

 ラーメン屋台を恙無くこなす。これは賃金が発生する〝お仕事〟だからね。

 お兄さんは今日は品物整理はやらないと言った。

 そして何があったんだい?と優しく尋ねてきた。

「後で相談しようと思ったんですけど……」

 エバ兄は自分はここに来れなくなるかもしれないんだけど、弟と妹をこのまま働かせてくれるかどうかをお兄さんに尋ねた。もし、冒険者カードにお金を入れていただけるならお兄さんに預けていくからと。

 お兄さんはそういうことも可能だけど、なんで来れなくなるんだい?と聞いた。

 わたしは黒板に書いた。

ーー国営の孤児院でも違約金とか担保とかって発生する?

「ミルカ、意味わかって言ってる?」

 わたしがうなずくと兄ちゃんたちが揃って黒板を見た。

「イヤクキンってなに?」

「タンポって?」

 と聞き合っている。

「ミルカ、ちょっと待って。昨日孤児院に帰ってから何があったのか順序立てて教えてくれる?」

 エバ兄とファン兄が交互に説明していった。

 そして朝、院長先生から言われたことまで聞くと、お兄さんはフーと息を吐く。

「それにしてもミルカは難しい言葉をよく知っていたね」

 わたしはえへんと胸を張る。

「違約金というのは契約の約束事を違えたときに発生する金品のこと。担保というのも契約通りにいかなかったときに、金品がではなく代わりに支払う品物や人のこと。

 君たちが聞いた孤児院を明け渡す、というのは、孤児院の土地を売るって約束をしたと考えられるね。だけどあの孤児院は国営だから売れないはずだし、そもそも孤児院の養子制度に金品は発生しないよ。寄付という形をとる人はいるとしてもね。見返りを要求するのはおかしいことだよ」

 ほらほら、やっぱりおかしいって!

 わたしの鼻息が荒くなった。

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