第17話 一難去ってまた一難

 わたしが水の入ったバケツを持ち上げると、エバ兄がすっごく驚いている。

 力がついたなーと。

 即席で実を食べて、力をつけたんだけどね。

 働いていると力がつくんだなーと感動している。

 確かに毎日街まで行くので、足腰は鍛えられた気がする。

 だからってステータスは変わらなかったけど。

 働いてそして賄いにラーメンをいただき、力がついてきたのかもなーとは思う。

 ……食べている時はついつい忘れちゃうんだけど、わたしたちだけ食べていることには罪悪感がある。院の子たちは、わたしたちがちょっと前までそうだったように、いつもお腹を空かせているのだから。

 孤児院の子たちの食事事情もなんとかしたい。

 売り物にもなるってわかったから、袋ラーメンをもらうことはできない。

 値がついてしまったから、院のみんなの分を買うのはとても無理だ。

 一回ならなんとかできそうだけどさ。

 それにあれを孤児院で作って食べたら、作り方をバラすことになっちゃう。

 せめても、シュシュが売れたら、何か作物を買ってきて庭で育てよう。

 

 その日の夜、院長先生がご機嫌だった。

 夕食の後に特別なお知らせがあった。

 なんとダーシに続いて、ディックも養子先が決まったという!

 ディックが街で日雇いの仕事をしているのを旅商人が見ていて、ハキハキしたいい子だなと思っていたそうだ。ひとところに住むわけじゃないから、良かったらという感じだったんだけど、世界を一緒に回らないか?と言われて、ディックは行きたい!と思ったそうだ。

 そっか。よかったね。ディックはきっと家族が欲しい人だから、いいことのはずだ。

 みんなもおめでとうと祝福の言葉をかけた。

 旅商人だから、明日この街を立つとかで急なお別れになってしまったし、二度と会えないかもしれないけど、ディックの未来が楽しいといいなと思った。

 これからもディックに嫌がらせをされるかもしれないと思って、ポイントを使って身体能力をあげとこうと思ったけど、しなくてすみそうだ。

 ……でも今日30個一気に食べるのはなかなか大変だった。

 素早さだけじゃなく、パワーや他のもあげていこうかな。


 次の日、みんなでディックを見送った。

 旅商人のおじさんはディックの肩をぐいっと自分の方に引き寄せて、今日から私の息子ですとディックを紹介した。

 ディックの目が赤くなって、嬉しいんだと思えて、お互い絡めた腕が良かったと思わせた。

 ディックは「ざわざわ」を「ギュッ」としてくれる人ができたんだ。

 それは本当に良かったと思えた。



 今日はいい日。街に行き、ライアンお兄さんにもそのことを報告して楽しくお手伝いした。ポイントは入ってくる。素早さの実はこれからも2個ずつ、そして他のも何か一つ食べていこうと思う。

 エバ兄はヒューさまとダンジョンに。

 お兄さんはエバ兄の代わりにと、孤児院からアリスをスケットに雇ってくれた。ラーメンを作るのはお兄さんで、そのほかの事をファン兄とアリス。会計はアドで、わたしが空の器を回収して洗い物をした。

 エバ兄も怪我もなく帰ってきて、今回もいい薬草が手に入れられたと、報酬を弾んでもらえたようだ。嬉しかったようで、買い物もしてきたという。



 そうしていつものように院に帰ると、院の中が変な感じだった。

 いつも外で遊んでいる子供たちがいない。

 わたしは院に入る前の茂みに、エバ兄たちを連れていってしゃがみ込む。

 アリスの手も引っ張ってきた。

 院のドアが乱暴に開く。大柄な人が中から出てきた。あの人が足で開けたんだ。

「あのガキか、もしくは代わりのガキ、用意しておけ。2日、時間をやる」

 出てきたのは3人の大きな大人。捨て台詞のように、院に向かって大声を出す。

 その中のひとりは見たことがあるような気がする。

「だから孤児はやめとけって言ったんだよ」

 男たちは大きな声で悪態をつきながら歩いて行った。

 完全に背中が見えなくなってから、わたしたちは院の中へと走った。


 食堂にしている部屋でみんなが集まり身を寄せていた。院長先生が青い顔をしている。

「どうした? 何があったんだ?」

 エバ兄が尋ねると、女の子が泣き出した。

「ダーシが逃げたって」

 ダーシ?

 あ、見たことあるって思ったあの人、農家の人だ。

 ダーシと肩を並べ御者台に乗り込んだ人。

「逃げたってどういうこと?」

「わかんない」

「ダーシが逃げたから、仕事の手が足りないって」

 院長先生はみんなに落ち着くように言って、ダーシを見かけなかったか聞いた。

 みんな首を横に振る。もし見かけたら先生に教えてちょうだいといい、年長のハウル13歳に夕食のことを任せると言って、自分の部屋に入って行った。

 ハウルは話は後にしようと言ってその場を仕切った。


 エバ兄が今日はお金が入ったからと、ピンガの皮と野菜くずを買ってきていた。みんなのご飯にしようと言って。やっぱり院のみんなの食事事情が気になってたんだ。

 最初の日は夢中で食べてしまったし、院のみんなのことを思い出さなかったけれど、このごろ賄いをいただくたびに、みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 エバ兄たちもそれは同じだったみたいで、見習いの仕事で収入があったら、院のみんなのご飯を買おうと思っていたみたいだ。

 ピンガは飛ばない鳥だそう。脂が多いので、脂身の多い皮は食べないのが一般的らしい。貧乏人はそれを安く買って、クタクタになるまで煮る。皮はなかなか噛みきれないのでガムのようにずっと噛んでいられる。これをよく食べている。

 貧乏人にはピンガの皮はご馳走だ。少量でも何度もスープの出汁にできるし、味が出てこなくなったら、それを細切りにして、少しずつ食べる。

 今日は初ゆでのビンガスープに野菜を入れたスープだ。

 元々のご飯はパンがひとつだったようだ。

 温かいものをお腹に入れると、落ち着くよね。

 院長先生の部屋にも持って行ったけど、お休みになられているみたいで返事はなかったそうだ。

 廊下に置いてきたという。

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