第3話お互いのことを知りましょう
碧川のコンディションは最悪だった。
星奈にメールを送ったあと、不甲斐ない自分への後悔とどうやって挽回するかを考えると眠れず、寝不足だった。
なんとか仕事はこなすものの、疲れ切っているのは周りの目から見ても明らかだった。
「今日はどしたん?めっちゃ辛そうじゃん。」
同じプロジェクトに配属されている同期の同僚、成瀬陽介(なるせ ようすけ)が声をかけてきた。
成瀬は笑顔の似合う男で、仕事もよくできる。チャラそうにも見えるが仕事ぶりから真面目であることが伺え、碧川とは気が合っている。
「・・・こういうのを青天の霹靂と言うんだろうか。」
今まで人に恋愛相談をしたことなかったのでよくわからない回答をしてしまった。
むず痒い工程はすっ飛ばして話が先に進めば楽なのに。アドバイスは欲しいが相談はしたくない。我ながら我儘だなと思いながら成瀬から視線を逸らした。
そんないつもと違った雰囲気を感じ取った成瀬はニヤリとした。
「恋の悩みか?」
「っ!?」
思わず碧川は大きく目を見開いて成瀬を見る。
「お前はご都合主義国家の住人なのか?話のテンポが良すぎる!」
「てへぺろっ」
成瀬は可愛らしくおどけてみせる。
イケメンだから許される仕草だ。
「まあ恋愛関係は独特の雰囲気ってものがあるのさ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうけどね。」
「・・・それで色々悩んで寝不足なだけだよ。」
「そいつはプロジェクトリスクだな。昼飯一緒に食おうぜ。」
イケメンすぎる。こいつは男まで惚れさせたいのか。
ーーー
「お前がそんなに面白い奴だとは思わなかった。」
昼飯を食べながら成瀬が言う。
悩みを打ち明けたあとの第一声がこれだった。
「色々突っ込む点はあるが、とりあえずその子に連絡しなきゃな。今のままじゃ業務連絡をしただけだ。」
話のテンポが良すぎて胸がキュンキュンしそうだ。
やだ、これが恋?
「ありがとう。もう昨日から展開が早すぎてどうしたら良いのかわからない。」
「相手も突然だしな。とりあえず普通に自己紹介だろ。自分のことを知ってもらわないと。」
「そうか、そうだよな・・・」
「相手は見ず知らずのお前に付き合ってくれるんだ。相手が会話に疲れないようにしろ。無難な話題、質問から初めて興味のある話題を探せ。」
「やだ、これが恋?」
成瀬、なんて頼りになるやつだ。
昼休みの間に送ってしまえと言うので入力してみるが、送信ボタンを押す手が止まる。
「別に悪くないから、送っちまえ。」
成瀬に背中を押されて送信する。
内容は普通に自己紹介。いきなり、長文を送るのもどうかと思ったので、3〜4文程度の長すぎず、短すぎずという内容。
大丈夫・・・きっと大丈夫だ。イケメン成瀬の指導のもとの対応だ。
「お疲れさん。ところで、今日は進捗定例があるが準備大丈夫か?」
すっかり忘れてたので昼食を済ませて急いでデスクに戻ることに。
何から何まで成瀬はイケメンだ。
ーーー
午後一の打ち合わせなども終わり、時計は 15 時を過ぎていた。
集中すると他のことを忘れてしまうたちで、あれから携帯を確認していなかったことをふと思い出した。
携帯を見ると通知がある。心臓が少し高鳴った。
『お仕事お疲れ様です!こういうの初めてで緊張しますね!』
そんな書き出しで始まる返信だった。
内容は当たり障りのないものだった。
良かった、少なくとも拒絶はされていないようだ。安堵した・・・。
そこで気づく。既読をつけてしまった。見ておきながら反応がないのは失礼かもしれない。
だが、次の打ち合わせの時間もあり悠長に考える暇もない。仕方ない・・・。
『ご確認ありがとうございます!後ほどお返事いたします!』
『また業務連絡来た笑』
すかさず返事が返ってきた。
わかってるよ、自分でもつならない男だと。
ふっと深く息を吐き、気合を入れ直す。
とりあえずは目の前の仕事、PM への進捗報告に向かうことにした。
ーーー
星奈とは連絡を取り続け 3 日が経った。
お互いのことが少しわかってきた。
・星奈は 27 歳で碧川の 2 つ下
・一人暮らしをしている
・少し前まで海外に住んでいた(場所については辺鄙な場所としか教えてくれなかった)
・今はコンビニでバイトをしている
・ほぼ休みなしで働いている
・機械音痴
・漫画やアニメに興味がある
・イタリアンが好き
などなど。
基本的には自分を知ってもらうことをメインにしているので「わかったこと」より「わかってもらったこと」の方が多いだろう。
「そろそろ会う約束でもしたらどうだ?」
昼飯を食べながら成瀬が言う。思わず箸を止める。
「俺みたいな不審者に会ってくれるだろうか?」
「もっともだな」
そこは否定して欲しかった。
「俺も付き合うから。」
「・・・3 人で交際とは斬新だな。」
「アホか!お互い友達を連れてきた方が会いやすいだろ。お前が一目惚れした人がどんな人か気になるしな。」
「問題は成瀬がイケメンすぎることだな。月とミジンコを比べたら誰でも月を選ぶだろ。」
「卑屈すぎるだろ・・・」
だが成瀬がいてくれると安心できるのも事実だ。
「こういう経験は学生のうちに済ませておくんだったな・・・学生時代に戻った気分だ・・・」
そう言いながらプランを成瀬と話し合った。
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