第2話ラブストーリーは突然に
碧川悠斗(あおかわ ゆうと)は IT 会社で働くごく普通のサラリーマンである。
趣味はネットと漫画、友達付き合いはそこそこ。恋人はいない。
学生時代の成績も悪くなく、スポーツは好きでも嫌いでもないという程度。
社会人になって 5 年、任せられる仕事も増えてきて毎日仕事に忙殺される日々を送っていた。
そんなどこにでもいるようなサラリーマン人生を歩んできた。
一体、俺はどうしてしまったんだ?
先ほどの行動に自分自身でも困惑していた。
今日も碧川は普通に仕事をしていた。
業務の都合で移動をしている途中に立ち寄った公園内にあるコンビニの店員に一目惚れをしてしまった。
コンビニの店員、星奈は仕事が終わったので仕事仲間に挨拶をしながら店を出ようとしたときに碧川が店内にやって来た。
すれ違いざまに碧川は無意識のうちに声を発し、コンビニの前で告白をしていた。
どちらかという控えめな性格だったので、これまでこんな行動はしたことがなかった。
本当に自然に体が動いてしまい、気がついたら告白をしていた。
不幸中の幸いというか、星奈は碧川が悪い男ではないと思ってくれたらしく連絡先を交換してくれた。
こんな不審な男を拒絶しないなんて本当に奇跡だ。
しかも、あんなに可愛い女性が・・・
間違っても自分がイケメンだなんて勘違いはしない。碧川はそんな男だ。
普段の碧川であれば、星奈は高嶺の花だと距離をとってしまうレベルで容姿が整っていた。
もちろん美人が嫌いなわけはない。ただ、それ以上に星奈のことを考えると不思議な感情が湧き上がってくる。
これが一目惚れなのか・・・
自分でも戸惑っていたが徐々に冷静になり、そして今度は彼女にどう連絡を取れば良いかわからず悩み始めた。
こんな感じで始まった場合、いったい最初にどんなメッセージを送れば良いというのか・・・。
そう思っている間に職場にたどり着いたので、いったん悩みは脳の隅っこに追いやり、碧川は仕事に没頭するのであった。
ーーー
星奈結愛(ほしな ゆあ)はいつも通りバイト先であるコンビニに出勤し、いつも通り仕事が終わり帰ろうとしていた。
すれ違いざまに入店してきた男性に突然告白されたのは生まれて初めてだった。
正直、容姿が悪くないという自覚はあったし、これまでも男性から告白された経験もあった。
だが一目惚れで、出会った瞬間に告白されるというのは初体験だった。
生きていればこんな経験もあるものなのね。
最初は自分を騙そうとしているのではないか、何かの犯罪に巻き込まれようとしているのではないかと警戒していた。
しかし碧川の必死な態度を見ているとどうも本当に私のことを好いているのではと思ってきた。
あれで演技だったら名俳優ね。
これでも人の見る目はあるつもりだ。
とはいえ、いきなり知らない人に愛を告白されても対応に困る。
悪い人ではなさそうだし、連絡先を教えてしまった。
本当に会ったことないのかしら・・・?
どこかで会ったような、全く記憶にはないはずなのに何か大切なような、よくわからない感情になってしまい思わず「友達から」と口にしていた。
碧川の必死な態度にあてられてしまったのかもしれない。そう思うことにした。
いったい碧川からどんなメッセージが来るのか、なんだかちょっと楽しみになって来た。
ーーー
碧川が帰宅した時には 23 時を回っていた。今日も目まぐるしく忙しかった。
こんな日々がずっと続くのか、シャワーを浴びながら 1 日のことを振り返りながらふと気づく。
星奈さんに連絡をしていない!
あんなことをしておきながら全く連絡を取らないなんて失礼過ぎる。冗談だったんだと思われてしまう。
いそいそとシャワーをすませ、携帯を手に取り、そこでフリーズする。
何を送れば良いのかわからない。愛を伝えるのか、世間話をするのか、自己紹介をするのか、面白い話をしたら良いのか、いったい何が正解なのか・・・
かと言って、遅過ぎる時間にメッセージを送るわけにはいかない。碧川はだんだん焦ってきた。
そうしている間にもどんどん夜は更けていく・・・。
ホウレンソウは社会人の基本だ。連絡が遅ければそれだけ事態は悪くなる。
こんなものが初めてになるなんて・・・初回連絡ガッカリ男ランキングが存在するならランクインするのではないか?
そう思いながら碧川は星奈にメッセージを送った。
『本日は大変ご迷惑をおかけいたしました。本日はすでに遅い時間となってしまいましたので明日改めてご連絡を差し上げます。』
ーーー
携帯の音が鳴った。
星奈は布団で少しうとうとしていたが、こんな時間になんだろうと携帯を手に取る。
「・・・業務連絡かっ!」
ちょっとツボった。
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