第十二話 セトとの訓練

 食堂にて。俺はセトと一緒にフレンチトーストを食べていた。

 異世界なのにフレンチトースト?と思うかもしれない。でも、そのまんま俺が知っているようなフレンチトーストなのだ。

 しかも美味しい。

 リーベによると、異世界人が伝えた料理らしい。それにしても美味しい。

 もう既に三枚程食べている。これやばいぞ、フォークが止まらない。


 「さて、腹も膨れたことだし、ソラよ。訓練に行くぞ!」

「ふぁだたえてるふぁらひょっとふぁっへ。」

「幾ら美味いからといって、食べ過ぎではないか?」

「ムグムグムグ」

「良いから飲み込んで喋れ。」

「こへでおわりにふるふぁら」

「待ってるからな。」


 セトに急かされ、すぐに咀嚼し、飲み込んだ。


「よし、食べ終わったぞ。訓練場に行こう。」

「やっとか。恐らく訓練場そこでリュナが戦ってるから、ひや――観戦しに見に行こう。」


 ルミアの姿が見えないから、リュナはほぼ確定で戦ってる負けてるだろう。

 幾らユニークスキルがあっても、ルミアの武器には勝てまい。


◀ ◇ ▶


 俺とセトは訓練場についた。本当に戦ってるかと思うぐらい静かだ。

 中に入ってみると、汗を拭いているルミアと床に倒れているリュナの姿があった。

 ルミアは俺を見つけるなり、


「ああ、ソラさん。

スキルの練習しに来たんですか?」

「それもあるけど、リュナの様子見に来た。」

「この方ですね。

先ほど、『私はソラ君のパーティメンバーの最強剣士、リュナよ!あなたがルミアね!いざ勝負!』と言って真剣で斬りかかってきたので、軽く流しておきました。

気絶しているだけです。危害は加えてないので、安心してください。」


 と、地面に倒れているリュナを指さして言った。

 真剣を使って不意打ちとかどんだけ卑怯なんだよ。しかも負けてるし。


「うちのリュナが迷惑をかけたみたいで、ごめんね。」

「いえいえ、迷惑じゃないですよ。」


 迷惑じゃないんだから、よほどリュナが弱かったのだろう。多分一瞬だったんじゃないか?


「貴様がルミアか。リュナを倒したその手腕、お見事。次は我の相手をしてもらおうか。」


 セト、話がややこしくなるからやめて!


「ごめんね。うちの者が次々と……」

「いえいえ、それに、この方のほうが良い練習になりそうですので。」

「そうか、ならば我も本気を出そう!どこからでもかかってくるがいい!」


 ヤメテ。冗談抜きで世界が滅ぶ。

 俺は『本気はやめろ』と目線で合図する。

そのことは伝わったのか、セトが少し態度を小さくした。


 「では、参る。」

「お願いします。」


 と、挨拶を互いに交わした。

刹那、ルミアの武器とセトの翼が交差する。


「ほう、我の翼を受け止めるとは。」


 セトに翼なんてあったっけ。セトの背中からコウモリのような禍々しい翼が生えていて、ルミアがかろうじて受け止めていた。

 そして、目にも留まらぬ速さで打ち合いが行われる。

 ミカエル戦以上の速さで武器を変えていくルミアと、翼で攻防が出来るセト。ルミアが人間である以上、軍配は精霊であるセトに上がりそうだ。


 しばらく打ち合いが続き、段々とルミアの動きが鈍ってきた。

目で追えないほどの速さで戦っていたのだ。俺の予想通り、体力の限界を迎えたのだろう。

 ルミアの動きはどんどん遅くなり、やがて止まった。まだまだ余裕そうなセトは、体力が尽きたルミアを攻撃しようとはしない。

 セトは抵抗しない弱者を追い立てるようなことはしないのだ。


「我の動きについていける人間は久しぶりに見た。良い手合わせだった。感謝する。」

「いえいえ……」


 ルミアは息切れが酷く、声を発する余裕もなさそうだ。

 俺は走ってルミアの水を持って来て、座り込むルミアの側に置いた。


「ソラさん……ありがとう……この方は……強いね……」

「我は虚無と混沌を司る闇の精霊神、セトだ。

軽い運動程度の力とはいえ、我の動きについていけるとは、貴様もなかなか強者つわもののようだな。」

「神……ソラさん、セトさんは……面白いね……」


息切れが酷い。

あの激しい模擬戦の後で喋る余裕があるとは、どれだけの力と研鑽をルミアは積んだのだろう。


 「残念ながら本物の神だよ。」

「本物……そう……」


「―――ええ!?」


うん、まあそんな反応になるよね。さっきまで自分が神と戦ってたことをやっと理解したからね。

 するとルミアが、セトに向かって


「神とは大変……失礼いたし、ました……」

「いやいや、我も感心した。かなり高度な武術をしているようだな。もっと自分を追い込めば、人間の上、高みに到達できるだろうよ。」

「ありがたき……お言葉……」

「そんなにかしこまらないで良いから、今は休憩しろ。」

「はい……」


 俺はルミアを長椅子まで運び、寝かせた。

セトが弱い氷魔法をかけている。

 俺は近くにある魔法水道まで走り、水をバケツに汲んできた。

 リュナの荷物の中にあったタオルを水に浸け、水気を絞ってルミアの身体に当てて冷やす。

 この時大事なのは、首や脇の下等、太い血管が通っているところを重点的に冷やすことだ。

こうすることで、より効率的に身体を冷やすことが出来る。熱中症とかで有効な手だ。


 しばらくルミアの身体を冷やし、だんだん動けるようになってきたところで少しずつ水を飲ませる。気管に入ると危険だからね。

 その調子で回復させていき、ルミアは歩けるほどに元気になった。


「ありがとう。ソラさん、セトさん。」

「すまんな。我が少しやり過ぎたために……」

「いえいえ、とんでもない。お陰で自分の力がわかりました。ありがとうございます。」


 身体を少しづつ冷やして安静にすれば二時間程で回復するだろう。

 そのためには、ひとまず屋敷に帰らないと。


「ルミアはもう屋敷に戻ったほうが良い。俺もリュナこれを連れて帰らないと。」

「そうですね。この炎天下だと危ないですから。」

「セト、ルミアがつらそうだったら手伝ってやってくれ。」

「お安い御用だ。」


 ルミアは時々セトの助けを借りながら、俺はリュナをおぶりながら屋敷に帰った。


◀ ◇ ▶


 屋敷に戻ると、ドアの前にリーベとリアの二人の姿があった。


「ソラさーん!ルミアちゃーん!」

「お兄さーん!ルミちゃん大丈夫ー?」


今日は気温が高いし日差しも強い。

 この炎天下の中訓練に行った俺たちを心配していたのだろう。

 ぐでっとしているルミアを二人に預ける。


「まあ、ルミアちゃん、こんなに赤くなっちゃって。」

「何やったの、お兄さん。」


 俺は二人に訓練場での出来事を話した。


「なるほど。そんなことが。」

「ルミちゃんもこう見えてがんばりやさんだからね。

お兄さんたちも、今日は異様に暑いから、外に出るのはやめておきな。屋敷内には書庫とかもあるから、充分楽しめると思うよ。」

「ありがとう。それじゃあ一度風呂に入って、それから書庫によるとするよ。」


◀ ◇ ▶


 俺の部屋に戻ると、朝起きたときには無かった俺の服がきれいに畳んで置いてあった。

朝ルミアが洗濯して持ってきてくれたのだろう。

 俺はその着替えを持って浴場に行くことにした。


「ソラ、我は先に書庫で待ってるからな。」

「わかった。迷わないようにしろよ。」


 浴場に着き、脱衣所に入って服を脱ぐ。

 風呂場に入ってまず身体を洗う。

 それから風呂に入る。

 今日は昨日とは違う風呂で、白濁しており、なんともいえない柑橘系のいい匂いがしていた。

 湯船に入る。


「はぁ~~。」


 やっぱり外で汗をかいた後の風呂は最高だな。

何もしてないけど。

 ただルミアの訓練見に行っただけ。


 しばらく湯船に浸かり、午前中の疲れがとれて身体が暖まってきた頃、湯船から出て脱衣所へ向かう。

セトを待たせているので、昨日のように長風呂するわけにはいかない。

 脱衣所で自分の服に着替え、浴場から出る。

セトは道に迷ってないといいが。


 一度自分の部屋に言って着替えた服を置き、それから書庫に向かうことにした。


 しばらく歩いて、それらしきところに着いた。使用人の仕事を手伝っていた時にこの屋敷内を歩き回っていたため、大体の構造は理解できる。そのお陰で、割とすぐ書庫に着くことが出来た。少し迷ったけど。

 中に入ると、本棚がいくつも並んでいて、壮大だった。

 障害物で全体は見渡せないが、セトはいない。

 すると、後ろ、入口の方から、


「おーい、ソラー!早いなー!」


というセトの声が聞こえた。案の定道に迷っていたのだろう。


 「この屋敷、広すぎないか?

よく我より早くたどり着けたな。」

「まあ、探検して大体の位置はわかってるよ。

とりあえず中に入ろう。魔導書とかあるのかな。」


 この書庫で一番楽しみなのは魔導書だ。

 今の俺には戦闘手段が無いため、魔法を覚えて攻撃できるようにしないと。

いつまたミカエルが襲ってくるとも限らないし。


 二手に分かれて書庫の中を歩き回り、それらしき本を見繕って集めた。

 俺はこの世界で会話は出来るが、字が読めない。

そこが最大の難関であり、魔導書が読めないと話にならない。

 今度ルミアに教えてもらおうかな。


「役に立ちそうな魔導書持ってきたぞ。」

「こっちもとりあえず魔法陣が描いてあるやつを選んで持ってきた。」


 セトが持ってきたのは、【空間転移】、【一般攻撃魔法】、【元素魔法】、【基礎魔法】、【魔力探知•魔力操作】、【防御魔法】、【魔法結界】、【魔法妨害】について書かれた魔導書たち。

 一方俺が持ってきたのは、【魔力について 入門編】、【魔道具について 初級編】、【三十分でわかる魔法史】、【魔法と魔術の違い】、【スキル、技術アーツ、魔法の共通点と相違点】といった、教科書のような物ばかり。


「本格的に魔法を覚えるより、基礎からやったほうが早いと思うぞ。」


確かにそうかもしれない。

 土台を作らないとその上に建てることはできないからな。

 まず俺は魔力について学び始める事にした。

 ちなみにこの世界の文字を読めるわけではないので、セトが代読してくれている。


◀ ◇ ▶


 魔力とは、全ての生命が持っている、エネルギーとなる物質の一つ。

 普通の人間には微弱すぎて殆ど持っていないのと同じだが、稀に感知できるほどの魔力を持っている人間がいる。

その人間たちが魔術師、魔法師、付与術師、召喚士、呪術師等の職業に就く。

 魔力を持っている生物は、相手の魔力を可視化出来る。

可視化できるほどの魔力の発生源を感知するのが、スキル【魔力探知】となる。

 大気中にも微弱な魔力が漂っているが、よほど感知能力を上げないと感知出来ない。

 この感知能力はスキル【魔力感知】となる。

 大気中の魔力の乱れを読み取ることで、ものの場所を感知出来る。

これは戦闘中にも適用される。

上手く使うと小さい相手や、姿を隠す相手、素早い相手等を視認することなく感知出来る。

 一方、魔力を感知するのではなく、魔力を操作して

防御、回避する方法もある。

 強大な魔力が体外にあると、魔力を媒体とする、魔法や魔術は乱されて通用しなくなる。

 このように、魔力を扱うには操る力、感知する力の両方が大切になってくる。


◀ ◇ ▶


と、書かれてあった。入門編なのに滅茶苦茶難しい。内容を理解するのに悪戦苦闘しながらも、次の本を読み始める。

 次はスキル、技術アーツ、魔法についてだ。


◀ ◇ ▶


 スキル、技術アーツ、魔法にはそれぞれ共通点と相違点がある。

 魔法というのは、スキルと技術アーツを組み合わせて生み出す手段だ。

魔力を媒体としているので、妨害は様々な手段で可能。

魔法を妨害する方法としては、魔力を浄化する、より大きい魔力で乱す、魔力を封じ込める等がある。

魔法を封じ込めるスキルを、【魔法阻害アンチマジック】という。

 技術アーツを妨害するにはより大きい力で立ち向かうだけ。

技術アーツは簡単に言うと経験と修行の力なので、妨害はとても難しい。

 スキルは妨害する方法があるが、非常に珍しい能力が必要になる。

実際に確認されているのは、特異体質【権能無効アンチスキル】だ。

 だが、スキルはユニークスキルに、ユニークスキルは神之権能ゴッドスキルに抗うことはできない。

現時点では【権能無効アンチスキル】はユニークスキルまで有効と判明している。

 スキル、技術アーツの法則を理解することで魔法を扱えるようになる。


◀ ◇ ▶


と書いてあった。

 次は―――

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