第十三話 魔法の練習

 魔力についてや魔法について等の本を読み、その内容から大体魔法というものの法則がわかってきた。

 次は、前二冊が難しすぎてまだ読めてない本。その中から、俺は【魔法と魔術の違い】という本を手に取った。


◀ ◇ ▶


 魔法と魔術の違いとは、端的に言えば技術の違いである。

 両者は魔力を制御し扱うという点は同じだが、そもそもの発動方法、使用者に求められる技量等が違ってくる。

つまり、仕組みが根本から違うのだ。

 魔法とは、この世界のことわりに干渉し、イメージで創り上げるモノ。

 魔術とは、詠唱や魔法陣などで自らの魔力を具現化して使用するモノだ。


 魔法の扱いは、イメージするだけなので一見誰でも出来るように思える。

 しかし、イメージの精度だったり、魔力の練度、強い精神力等、経験と技量がないと生半可なものになってしまい、いざ実戦で使おうとしても上手くできず、命を落とす者が多数いる。

 一方魔術は、詠唱や魔法陣と聞くと難しいものだと思えてくる。

だが、これは知識次第でなんとかなるのだ。

魔力の扱いが上手くなくても、詠唱や魔法陣によって制御するので技術面は何の問題もない。

なので、魔術は知識と魔力があれば誰でもできるということだ。

 だが、これは裏を返せば魔術師は知識量で勝敗、優劣が決まるということになる。


 このように、魔力はもちろん大事なのだが、技術面や知識面も重要になってくる。

 技術は難しいという人は知識でカバーできる。

 反対に、勉強は難しいという人は経験を積めばいいのだ。


◀ ◇ ▶


 という内容だった。

 割とわかりやすい内容ではあったが、魔法の法則性というのは複雑で難しい。それでも理解しなければ使えないのだから、こればっかりは努力しかないだろう。魔術を選んでも呪文詠唱や魔法陣を覚えなければいけないし、魔法を選んだら想像力が要求されてくる。折角だから魔法を使ってみたいし、俺は魔力大量に保持してるから合っていると思ったんだが、どうやら少々難しそうだ。

 次は、俺が集めてきた本でラストの本、【三十分でわかる魔法史】。

 内容が長いので、現在翻訳家を担当しているセトが「重要なところだけ抜粋して読むぞ。」と言っていた。


◀ ◇ ▶


 魔法史は、攻撃と防御の歴史。

 攻撃魔法がより強力になるほど、それを防げるほどの防御魔法、結界が編み出されてきた。


 そもそも魔法というのは、創世の七師の一柱ひとり真魔皇帝デモン•エンペラーディボスが創ったとされる法則。

そこに、人間が手を加えてきた事で現在の魔法がある。

現在の魔法体制、及び魔術の法則を整えたのは、賢者ソフォスとされている。

 そのソフォスが創った書庫には、強力な魔法が記された魔導書等、数々の貴重な書物が眠っていると言われているが、その書庫に辿り着いた者はおらず、近年ではそんな書庫があるのか、そもそも賢者ソフォスが実在したのかも怪しくなってきている。


(セトにより抜粋)


 そんな魔法だが、筆者は最近、魔法を操れる者、すなわち魔力を持つ者が増えているように感じる。

 創世の七師の内の四柱は眠りから目覚めたという噂も聞くので、何かそれと関係があるのだろうか。

 そして、魔法師が増えたことにより魔法史に新たなページが書き加えられるのだろうか。


◀ ◇ ▶


 といった感じだ。


「これは割と最近書かれたもののようだな。にしてもディボスか……あやつ、元気にしておるかな……」


 セトが読み上げた内容に色々と気になるものが含まれていた。というか、魔法史ってこんな感じなのか。

 まず、真魔皇帝デモン•エンペラーディボス。

こいつは創世の七師の一柱ひとりらしい。

セトが懐かしんでいる様子を見るとほぼ間違いないだろう。

 現在判明している創世の七師の情報をまとめてみる。


・混沌と虚無を司る闇の精霊神 セト

 現在俺の契約精霊として活動中。

 少なくとも二百五十年前には目覚めている。

・??? リュナ・イヴ

 現在俺のパーティメンバーとして活動中。

 十六年前に目覚めた。

真魔皇帝デモン•エンペラー ディボス

 魔法を創った神。詳細不明。


 あと、重要人物としては賢者ソフォス。話を聞く限りは伝説級の偉人だ。


 「おいソラ、何やら考え込んでいるようだが、この魔導書らは読まないのか?」


 そう言ってセトが持ってきたのは、必要最低限の魔法が記された魔導書達。まあ確かに、魔法と言っても一口に戦闘用だけではないし、実用的な魔法とか、基本中の基本とも言えるような魔法もあるのだろう。


「読む読む。」

「じゃあ今から読み上げるからしっかり聞いておけよ。これが魔法の使用に直結するからな。」


 セトが本を開き、文章を読み始めた。

 俺はしばらく真剣に聞く。


 そして、セトが魔導書を読み終わったので、その内容を簡単にまとめておく。

 元素魔法は、五大属性である水、火、木、土、金のいずれかを自分の魔力に付与して魔法を放てばいいらしい。もちろんイメージで。

 一般攻撃魔法は、魔力の塊を生成して相手にぶつければいい。

これにはそれなりの操作技術が必要となってくるのだが、セト曰く練習すれば身に付くものだそう。

 魔力探知は集中して心を落ち着かせれば習得できる。

長く続けていれば集中力が上がり、心の平安も不要になるのだそう。

 結界や防御魔法は、目の前に壁を造るイメージだ。

高密度の魔力で造ると防御力は増すが、限度がある。

現在の魔法術式では大抵は防げるらしいので、練習していけば実戦で役に立つこと間違いなし。

 空間転移は、スキル【空間支配】が必要らしいので、現段階では使用できない。セトなら扱えるらしい。効果を聞く限りとても便利な、いわゆるテレポートの魔法らしいが、座標計算等の複雑な操作が必要になるため、たとえ【空間支配】があってもよほどの演算能力がないと使えないそうだ。

 ―――といった内容で、とりあえず魔導書通りに練習していけばなんとかなる算段である。上手くいけばいいのだが……数年ほどかかるのだろうか。


「明日になって暑さが和らいだら我と魔法の特訓だな。」

「ああ。」


 セトに頼らずに攻防が出来るようになりたいので、セトも乗り気で練習に付き合ってくれる。

 この日は夕食を食べ、皿洗いをして終わった。

まかないのときにルミアの姿があったので、熱中症からは回復したのだろう。


◀ ◇ ▶


 次の日の朝。

起きるや否や、ドアがノックされた。

 俺は寝起きで


「はぁーい。入っていいですよ〜。」


と返した。

 入ってきたのはルミアだった。


「朝起きたばかりですみません。どうしても昨日のお礼を言いたくて。昨日はありがとうございました。」


 ……ん?寝起きだから頭が働かない。

 そうか、熱中症になりかけた話か。あのときは、俺が応急処置して屋敷に連れて帰ったんだっけ。


「ああ、別にそんな……ルミアが倒れかけたから助けただけだよ。これくらい人として当然だ。」

「本当にありがとうございました。

それで、そのお礼と言ってはなんですが、ソラさんに字を教えてあげようと思いまして。

昨日書庫でこの世界の字に悪戦苦闘してましたよね。」


 確かルミアには転生者だと話したんだっけ。書庫での姿、見られてたのか。

まあこの世界でこれから暮らしていく以上、字を教えてくれるのはありがたい。


「ありがとう!今日は日中セトと魔法の特訓だから、夕食の後でいいかな。」

「もちろん。私はいつでも空いていますよ。では、夕食後に。」

「また。」


そう言ってルミアは静かに部屋から出ていった。

 さて、ルミアとの話も終わったことだし、セトを読んで朝食に行こう。


 隣の部屋に言ってセトを呼ぶ。


「セトー。朝食に行こうぜー。」

「ああ。ちょっとまってくれ。すぐに行く。」


返答があった。

 数十秒でセトが出てきた。

 俺達が食堂に行くと、リーベが待っていた。

すぐそばの椅子にはリュナが座っている。


「おはようございます!セトさん、ソラさん。今日の朝食はお味噌汁と刃角鹿の燻製です。」


 味噌汁!?

昨日はフレンチトースト。

これはどう考えても日本人の知識だ。

 そう言えばセトと初めてあったときも異世界にほんがあることを知っているような口振りだった。

 そうなると、俺以外にも日本人、あるいは地球人がこの世界にもいると考えていいだろう。

 その人達の知識と努力の結晶が、この地球の食べ物。

まさかこの異世界に来て日本食が食べられるとは。感動する。

 リーベが運んできたのは紛れもない味噌汁。それも、豆腐とワカメ。

 大豆があるのであれば他の食べ物もあるんじゃないか。

 俺はスプーンを取り、一口味噌汁を飲む。

 久しぶりの味噌の味。

 俺はしみじみと前世の記憶とともに、味わいながら味噌汁を飲んだ。ついでに刃角鹿の燻製肉ベーコンもいただいた。この油っぽさが味噌汁と合うのだ。


「今日も美味かったな。

ミソシルというのは不思議な味だったが、なかなか深みがあって美味だった。」


と、セトが言う。

 できればもっと食べたがったが、セトとの特訓があるので味噌汁はまた別の機会に。


 俺達はいつもの訓練場へ向かう。

 俺達が着くと、そこにはルミアがいた。


「あれ、ルミア。」

「ソラさん、それにセトさん。おはようございます。」

「ルミアは朝早いね。」

「ええ。今日はソラさんが魔法の特訓をすると聞いたので、その様子を見たくて来ました。

できればその後でお手合わせをしたいのですが……」

「良いけど、何で?」

「ユニークスキル持ちの魔法使いとは戦ったことがないからです。

色々な経験を積みたいですから。」


 最近思っていたのだが、ルミアはバリバリの武闘派だった。


「我もそんな相手とは正々堂々戦ったことはないな。

いつも戦うことはなかったし、あっても一方的に虐殺したからな。

我もソラと戦ってみたいものだ。」


セト、本当にややこしくなるから口挟むのやめて!


「え、セトさんって人を!?」

「うん、大昔に色々あったらしいよ。そこについては触れないであげて。」

「触れはしませんが……なんかちょっと怖いというか……」


それはそうだな。だって広大な土地を不毛の土地としたんだもの。かなりの人間を殺していると思う。


「今はそんな愚かなことしないから安心しろ。」


セトがそんな事を言う。

 よく知っている俺なら信じられるが、ルミアは安心しろって言われても無理だろう。

 まあなんだかんだあるのだが、とりあえず魔法の特訓を始めたい。


「魔法の特訓始めようよ。」

「おお、そうだな。まずは何の魔法からにするか?」

「基礎魔法からにしよう。」


 なんとか話を戻せた。では、特訓を開始しよう。


「基礎魔法には四つある。

炎、水、土、光を出す魔法だ。

まずは炎の様子をイメージしてみろ。」


炎といえば焚き火。前世でキャンプした時の焚き火の光景を思い出した。


「そうしたら指を出して、指先から魔力を出してみろ。」


指先から魔力を出す?よくわからないので身体の周りにある魔力を指先に集中させてみる。

 そうすると、指先から親指程度の小さい炎が出た。


「お、出来たな。次は水だ。さっきのイメージの水版だ。」


こんな小さいのでいいんだ。

以外に基礎魔法ってこんなものなんだな。

 次は水だな。今度は滝のイメージをしてみる。こちらは前世でナイアガラの滝の写真を見たときの光景を思い出してみた。そして、さっきと同じように魔力を指先に集中。

 すると、指先からきれいな水がチョロチョロと出た。

 多分これでいいのかな……?


「うんうん、出来てるな。他のやつもそんな感じでやってみろ。」


 土は災害の際にニュースで見た土砂崩れの様子、光は懐中電灯の光の様子をイメージした。


「じゃあ次はその調子で元素魔法だ。さっきのを球にしたり、一気に魔力を放出したりすることで攻撃手段になる。」


 要するに魔力の流れを調節したら攻撃になるということだ。

 これは一朝一夕で出来ることじゃないぞ。

ビームはなんとか出来るが、球はムリ。


元素魔法これは魔力操作の問題だから、後々練習していけば良い。次は一般攻撃魔法だ。

破壊のイメージをし、魔力を高密度にしてビーム状に放て。」


 物体をえぐり取るイメージで、魔力を発射する。一応危ないので上空に向かって。

 その魔力を見て、セトが言う。


「うん。出来てるな。ソラは飲み込みが早くて凄いな。

次は防御魔法。壁や盾のイメージで魔力を板状にしてみろ。」


板状……

よくアニメで見るような六角形のプレートを魔力で創ってみる。

これを大量に、より高密度の魔力で壁を造る。

 すると、目の前に防御魔法バリアが展開された。

リザード戦でセトが張っていたあの魔法。強度はまだまだのようだが、一応基礎は出来ていると言っても遜色はないだろう。


「凄いな。この短時間でそこまで上達する――」


突然セトの口が止まった。

その目は見開かれて、屋敷の門の方を向いている。

 屋敷の敷地外で何かあったのか。


「――急いで屋敷に帰るぞ。このままじゃ屋敷が危険だ。詳しくは後で話す。良いから急げ。ルミアもだ。」

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