第6話

そこでは、見目麗しい男がいた。

「翠華。やっと逢えたね。」

声の主はこいつか。でもなんか、心地がいい。なんでだろう…

そう思ってると、手をくいっと引かれてその男の胸にトンっと当たった。そのまま抱きしめられてると思いきや、耳元で何かを囁き始めた。

「翠華…あの……でさ…………なんだけど……」

とぎれとぎれで言葉が紡がれていく。何故かうちはそれを必死で聞いていた。

必死で聞いてるあいだ、躰の力がどんどん抜けていった。

最終的に気づけば、彼の腕の中でぐったりとしていた。


「聞いてる?俺の可愛い翠華。」

そう呼ばれてはっと目が開いた。開いた状態で彼を見れば、見覚えのある顔だ。

でもどこで見たか分からない。なぜか、分からない。

それでもいいような気が、少しづつしてきた。


「可愛い。俺の声だけでこんなにぐったりになっちゃった上に…」

そういった後、彼の手が、うちの内腿にスルッと入って触り始めた。

そして行き着いた先は…

「ぐっしょりなっちゃって。また、起きたら大変だね。」

そういった後、その男はクスッと笑った。

起きたら?なんでこの彼は、いつも夢見心地になってるのを知っているのだろうか…

そこで少し目が覚めた。

起きれば下着に嫌な感覚があった。

急ぎ履き替えて、布団に入って、寝てみようと思って寝た。

「あ、日記書いてないや。まぁ、いっか。」


「ねぇ、翠華。大好き、翠華。俺を見て?俺だけを見て?お願い、翠華。」

そう言われて、目を開けるとそこには例の男がいた。

「ねぇ、あんた誰?」

初めて夢の中で声が出た。びっくりした自分がそこにいた。

「俺は、君の欲望の具現化された存在だよ。」

そう彼は、うちに告げた。

「欲望って言っても、何も望んでないし、何も欲してないんだけど。」

そううちが言うと、彼は黙って考え込むような動作をした。

少ししたあと、口を開いてこういった。

「白昼夢。」

え?白昼夢?なんで今そのワードが出てくるのか分からない。白昼夢なわけないじゃん。おかしいでしょ。なんて考えてたら、いつの間にか、彼が目の前にいた。

「あー、白昼夢でもなんでもいいからさ、君のそばにいたいんだ。それに君に触れていたい。ダメかな?」

大型犬がおやつを求めるような、そんな顔をされては、さすがのうちでも折れる。困ったものだ。

少し可愛いと思った自分に鞭を打ち、少し考えてみた。

触らせてまたあの感覚が入るのか、触らせないで見つめられたままの感覚が入るのか、どちらがいいだろうか…

でも、なんだろう、触ってもらいたい気分ではある。

ならば、

「触ってもいいよ。でも加減はしてね。」

そう言うと、彼はぱあっと太陽が空に顔を出したような笑顔を見せて、躰を触り始めた。まるで、うちの存在を確かめるように、念入りにあちこちを触った。もちろん恥ずかしいところだって触られた。でもなんだか嫌な気はしなくなった。

「気が済んだ?」

そう言うと手が離れていった。ちょっと物足りなさを覚えたけど、でも触られてるあいだは心地よかった。また、触って欲しい、そう思ってしまうほど、触られてる感覚が悦かったのだ。

「翠華。」

そう呼ばれて上を見上げると、愛らしい顔が見えた。

均整に整った顔、滑らかなビスクドールのような真っ白な肌、体はすらっとしていて、モデルにいてもおかしくないような出で立ちだった。

一瞬、ここにずっといたいと思った。

あ、でも、そうするとうちがここから出られなくなる。どうしよう。でもここにいたい。

「翠華。」

もう一度、優しい声で今度は呼ばれて彼を見た。

そうすると、軽いバードキスが唇に降ってきた。

うちは、すごく驚いた。でも嫌な気はしなかった。

「翠華、ずっとここにいて?」

うちがずっとここにいたいと思ったその思考を見透かしたように、彼はそう言った。

「逆に聞くけど、ここにいていいの?」

そう聞くと、うん、と小さく頷いて答えた。

それならば、心地の良いここにずっといよう。目が覚めなくてもいい。ここにいたい。

なぜそう思ったかは分からない。でも、そう思ったからここにいたいと選択したのだ。

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