3-② 天の光はすべてサメ

 熊Guyが残した形見、5本のダイナマイトが炸裂し、地盤をエンドさせる。遂にトンネルは貫通し、城敷と跳子は光の下に歩み出た。

 眼前には海が広がり、昇りくる陽光が二人を照らした。「朝になっちゃったね。希望の朝だね」朗らかな跳子とは対照的に、城敷は訝しんだ。「おかしい。こっちは島の西側だぞ」「えっ」


「フフフ城敷よ、ここがお前の死に場所だ」「ワーッハッハッハ!待ちかねたぞペンギン刑事!」周囲を圧するように声が響く。

「その声は鮫淵!生きていたのか!」「あれ、理事長の声でしょ?」「どういうことだ……」

「「サメの意志はすべて同一!一人のサメが知り得た事実はすべてのサメが共有するのだ!ワーッハッハッハ!」」

 いまやその声がどこから聞こえてくるのか、二人の目にも明らかだった。


 百頭鮫ハンドレッド・ヘッド・シャーク


 水平線から輝き立ち昇るのは、全方位に巨顎を備えたサメである。天上のミラーボールのように、それは輝き回転する。サメデー・ナイトフィーバー!

 最早これまでか。城敷仁は覚悟を決めた。

「跳子。僕はね、人間じゃないんだ。常識人のフリをして逃げ隠れていたけれど、本当の僕はね」

 胸元から輝石の欠片を取り出す。

「夜空にタキオンをかざし、三度その名を呼べば、僕は超人スぺ」岩羽跳子の指先が、そっとその唇を押さえる。「だめよ。その先を言ってはだめ」ほんのわずかに潮の香、フリッパーの優しい手触り。

「だって『そのオチにはしない』って、あらかじめ作者がX(旧ツイッター)で明言したんですもの」


 作者!それはこの物語を真に記述していた人間である。すべての黒幕はその男だったのだ。


「作者なんてサメに食われてしまえばいいんだ!ヤツはあらかじめ作品外でそういう発言をしておいて、メタなギャグで僕たちキャラクターを二重束縛ダブルバインドするつもりだったんだよ!字数制限を避ける卑怯な手段を講じて!!」

「仕方ないわ、いまはSNS全盛の時代ですもの。わたしたちはプロットに従うだけなのよ」

 プロットとは物語の設計図のような存在である。すべてのキャラクターは知らず知らずのうちに、その敷かれたレールの上を歩まされていたのだ。

「僕らに自由はないのか!僕らは操り人形のような存在なのか!」

「いいえ、わたしたちにも自由はあるわ」

 跳子はやさしく仁の体を抱きしめる。

「それはね」

 唇と嘴が重なり、涙が流れた。

「愛よ」

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