天国へ行ける処刑台
区隅 憲(クズミケン)
天国へ行ける処刑台
あるところに独裁国家があった。その国の王は横暴を極め、王の言うことを聞かない者は、例え何の罪のない者であろうと次々と処刑した。民衆たちは戦々恐々に陥り、王の支配に屈服している。
だがある日、王国の街に教祖が現れた。民衆たちは突然の来訪者の登場に戸惑う中、教祖は民衆たちに説く。
「この国で誰かに処刑されて命を終えられれば、神がご慈悲を下さって天国にも行けましょう」
民衆たちは恐怖と絶望によって藁にも縋りたい心境になっていたので、忽ち教祖の言葉を信じた。そして民衆たちは自分が処刑されるために、王の厳命に逆らって次々と犯罪を起こした。国の治安は一気に乱れることになる。
王は街で犯罪が跋扈していることを知り、次々と民衆たちをひっ捕らえては公開処刑していった。だが罪人たちは公開処刑の瞬間、皆幸せそうな顔をしており、観衆たちでさえむしろ羨ましそうな眼差しを送っている。そして翌日になると、さらに民衆による犯罪が増加した。
王はこの不可解な状況に困り果てる。何故これだけ公開処刑しているのに、民衆どもが暴れ回るのが収まらないのかわからない。そこで兵たちに命令して市井を調査させた。すると「この国で処刑されれば天国へ行ける」という流布が広まっているのだと発覚した。
王はそれを聞き激怒する。処刑しても民衆が言うことを聞かないなら、いくら処刑しても意味がない。王は直ちに処刑の執行を全て止め、代わりに民衆たちを牢獄に入れるようになる。
その王の方針転換に民衆たちは
「俺たちを処刑しろ! さもなくばお前を処刑してやるぞ!」
だがそんな民衆たちが怒りで湧きたつ中、それを制止する者が現れる。
「おやめなさい。その者を処刑してはなりません」
民衆たちが振りむくと、そこには「この国で処刑されれば天国へ行ける」と流布した教祖がいた。民衆たちは教祖の登場に驚き、皆彼に注目する。
「この者は我々民衆を処刑し続けた罪深い者です。天国へ行く資格はありません。ここでこの者を処刑して天国に送っては、神のご意志に反するでしょう。ですからこの者は牢獄へ幽閉すべきです」
民衆たちは教祖の言に従い、処刑を取り止める。だがそこで民衆は困ってしまった。国王がいなくては、誰が自分たちを処刑してくれるのだろうかと。民衆の一人がその疑問を言葉にする。すると教祖は宣言した。
「ならば私が代わりにこの国の新たな王となりましょう。そして皆さんが望む通り処刑をしてさしあげます。ですが処刑するのは選ばれし国民だけです。もし処刑されたいのならば、これからは私が言うことに従いなさい」
そして教祖は民衆たちに犯罪をせず品行方正に暮らすようにと命令を下す。民衆たちは新たな王の言に従い、捕らわれた前王を引き渡しその場を後にする。そして翌日、街ではすっかり犯罪がなくなった。
だが新王は民衆を処刑しなければまた民衆の不満が爆発して、己も前王と同じ末路を迎えることを理解していた。そのために新王は何の罪もない国民をひっ捕らえては、公開処刑を繰りかえした。
天国へ行ける処刑台 区隅 憲(クズミケン) @kuzumiken
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