灯台守

尾八原ジュージ

灯台守

 お父さんが死にました。お酒を飲んで暴れることが増えたので、お母さんとお兄さんとお姉さんとおじいさんとおばあさんとわたしでいっぺんにやり返したら、案外あっさり死にました。あんまりよくない死に方なので、お葬式はしない方がいいなとおじいさんが言いました。お父さんがこんな死に方をしたのはないしょにしましょうねと、おばあさんが言いました。

 それから、みんなで死体を捨てましょうとお母さんが言いました。そこでお父さんを頭と胴体と右腕と左腕と右脚と左脚に分けて、おじいさんが胴体を、お母さんが右脚を、おばあさんが左脚を、お兄さんが右腕を、お姉さんが左腕を、わたしが頭を捨てることになりました。みんなばらばらのところに捨てようとおじいさんが言いました。

 わたしは頭をリュックサックに入れて、よいしょと背負いました。晩ご飯までには帰ってきてねと、お母さんがみんなに言いました。

 わたしたちは家を出ました。途中までお兄さんとお姉さんと一緒に歩きました。そのうちお兄さんが東の方へ、お姉さんが西の方へ別れて歩いていったので、わたしは南の方へ行くことにしました。

 どんどん南に歩いていくと、海が見えてきました。ちょうどいいので海の中に頭を捨ててしまおうと思ったとき、リュックサックの中から、海の中はしょっぱいからいやだなぁと、お父さんの声が聞こえました。そこで、海に捨てるのはちょっぴり待ってあげることにしました。でも、晩ごはんに間に合わなさそうだったら、文句を言われてもいいから、海に捨てようと思いました。

 灰色の海を見ながら砂浜を歩いていくと、灯台がありました。古ぼけていて、もう使われていないみたいでした。ドアはしまっていましたが、ドアノブをつかんで回してみると、ぎゅりぎゅり音をたてて開きました。わたしは中に入りました。中には階段があって、ぐるぐる巻きながら上に延びていました。わたしは階段を上り始めました。壁は白くて、ときどき汚れていて、埃と海のにおいがしました。

 上っていると二階に着きました。二階では男の人が一人、床に寝ていました。体の半分が骨になっていました。おじょうさん、ここに死体を捨てないでくださいよと、男の人が言いました。死体同士も何かと気をつかうものですよ。なるほどと思ったので、わたしはもう一階分、階段を上がることにしました。

 ぐるぐる回って三階に着くと、今度は首の長い女の人が寝ていました。ここにお父さんの頭を捨てていいですか? と聞いてみると、女の人は、女の死体があるところに、男の死体を捨てるなんて無神経よと答えて、怒ってしまったように見えました。わたしはもう一階分、階段を上ることにしました。

 四階にはだれもいなかったので、わたしはリュックサックの中からお父さんの頭を出しました。頭だけだと暇だなぁ、とお父さんが言ったので、わたしは持っていた油性ペンで、お父さんの目の前の壁に、お母さんとおじいさんとおばあさんとお兄さんとお姉さんとわたしの絵を描いてあげました。それから軽くなったリュックサックを背負って、階段を下りて行きました。女の人はまだ少し怒っていて、男の人は眠っていました。

 それからがんばって歩いたので、晩ごはんに間に合いました。お母さんとおばあさんはもうご飯を作り始めていて、お兄さんは宿題をしていました。それからお姉さんが帰ってきて、最後におじいさんが帰ってきました。

 そのあと晩ごはんの時間になったので、みんなで寄せ鍋を食べました。お父さんが暴れて鍋をひっくり返したりしないのでいいわね、とお母さんが言って、みんなが笑いました。わたしも笑いました。お父さんの笑い声が混ざっていたような気がしたけれど、だれも何も言いませんでした。

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