第4話
「遅くなったな」
「……なんで……っ」
暖かな風に長い銀髪を揺らし、紫の瞳を滲ませて、ただの剣と化した魔剣の横に佇む女にライトはふっと息を吐き出す。
「ライト・ルーウェンだ。軍人、25歳、よろしくな」
「……リ、リリアナ・フェルト……だっ」
「……思ってたより可愛い名前だな」
「はっ!?」
ボワっと頬を真っ赤に染める、ライトよりも若そうなリリアナに苦笑する。
「積もる話があるようなないような、ひとまず街に帰って荷物まとめんぞ」
「え!? あ、どこ行く……っ!?」
長剣を腰に差し戻し、念のために魔剣を拾い上げて荷物へと突っ込んだライトは、自身の着ていた外套をリリアナに羽織らせるとその身体を横抱きに抱え上げた。
「なっ、なに……っ!?」
「身体鈍ってんだろ。フラフラしてるし。そんな長いスカートじゃ、こんな湿地帯は歩けないしな」
「あ、歩ける!! 歩けるから……っ!!」
バタバタと暴れるリリアナに、ライトはニヤリとその口を歪める。
「いいのか? こういう湿地には色々いるんだぞ。蛇はもちろん虫やらヒルやら、こんな素肌の生足、格好の標的だ」
「……っ!!」
ビクリとその身体を硬直させて、真っ赤な顔でふるふると肩を震わせて大人しくなったリリアナを満足そうに眺めると、ライトは自身の首に腕を回すように指示して歩き出す。
「に、荷物まとめて、どこに行くんだ……っ」
「ん? そんなの決まってるだろ。休みはまだあるし、ここは南国のリゾート地だし、俺は仕事漬けのかわいそうな軍人だ」
「は?」
ライトの言わんとする意味がわからずに、リリアナが眉をしかめてその近い距離の顔を見上げる。
「お祝いと慰労に、豪遊するに決まってんだろ」
「は……?」
吸い込まれるような白い雲と青空を背景にニッと笑うライトを、リリアナは二の句を継げずに呆然と見つめた。
豪遊と言い切ったライトの言葉はまさしくその言葉の通りで、リリアナは借りてきた猫のようにその広い豪奢な部屋で縮こまっていた。
仮にも貴族が、寝られれば十分だなんて言って安宿ばかり泊まり歩いていたくせに、街有数の高宿の高い部屋を取り直すと、リリアナに適当なドレスを見繕う。
かと思えば互いに早々と一風呂浴びて、リハビリと称して街に繰り出し、気の向くままに買って遊んで食べてから部屋に舞い戻る。
そして今は大きすぎるソファで、酒を片手にぐたっているライトにリリアナは戸惑いを隠せなかった。
「お、お前いったい何がしたいんだよ……っ」
ええぇ……と微妙に距離を取りながら、リリアナはソファにもたれて天を仰ぐライトを伺い見る。
「……何がしたい? 何がしたいように見える?」
「……は?」
いくらか酔いが回っているトロンとした黒曜石の瞳はいつになく色香をまとう。
最大限にリラックスしている緩めた衣服から覗く鍛え抜かれた胸筋が視界の端にチラついて、リリアナは真っ赤な顔でゆっくりとその顔を反対方向へと向けた。
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