第3話

「……なぁ、お前って女?」


『……お前には関係ない』


「女か」


『男だ』


「女だな」


『聞けよ、人の話を』


 いらっとした魔剣の気配を無視して、ライトは寝起きの目をこすりながら尚も続ける。


「髪の色は? 長い? 若そうだな」


『魔剣の中にいるのに、若いもくそもあるかクソガキ……っ』


「ふーん……」


『おい、なんなんだ。朝から気持ち悪いぞ』


「……昨日ってなんか、特別な日だった?」


『……は?』


 ライトからの意表をつく質問に、魔剣はしばし押し黙る。


『知らないな』


「そうかよ。……ちなみに名前は?」


『忘れた』


「…………」


『……おい、なんだ。今の質問の理由を言え』


「知らないな」


『呪い殺すぞクソガキ』


 オーラが見えそうなほどに苛立った様子の魔剣に、ライトはハハっと笑う。


 ライトにしか聞こえないその声との付き合いは、その距離感を微妙に変化させながら、9年の月日を数えていたーー。






「ふぃー……、疲れたぁ……っ」


 暖かな風が吹く地方の湿地帯。その奥地で、ライトは大の字に寝っ転がった。


「魔剣の核になってる紫の石と同じものを探して、そっちに移した魔術式ごと破壊する。ってことでずっと石を探してたけど、魔物の一部って可能性もあっただろ?」


『お前、馬鹿かっ!! いや馬鹿だ!! 大馬鹿者だ!!』


 キンキンと耳元で騒ぐ声に、ライトは顔を歪めて耳を塞ぐ。


「悪かったな、ほんとはもう少し前から目星はついてたんだがーー」


 泥だらけのすり傷だらけで、ライトは黒曜石の瞳を閉じる。


「倒せる気がしなかったんだ」


 そう言って、あははと人事のように笑うライトの側には、軽く丘ができるほどに大きな、ワニを連想される魔物が首を斬られて絶命していた。


『このクソ馬鹿っ!! 当たり前だ、あんな魔物……っ!! 死んでも……っ、死ぬところだったぞ……っ!!』


「でも倒せただろ。まぁ、また助けてもらっちまったから、いまいち格好はつかなかったけどな」


 そう言って、掲げた右手の袖をまくると、手首までだった侵食は肘まで進んでいた。


『予想が違ったら!? 違ったら、魔剣に侵食されただけじゃないか……っ!!』


「違ったらな」


 ふぅと息を吐いて身を起こすと、ライトはワニの魔物の腹を縦に割く。


 様々な内容物がその原型をいくらか残した状態で溢れ出る中、キラリと光る輝きに目を止めて、そっとそれを手に取った。


「各地方の鉱物や人工物や名産品を当たりまくったが、魔物の胃石なんて流通もしなけりゃ認知も低い。そのくせ魔力は内在してるから媒体としてはうってつけ。お前を閉じ込めたやつはよほど性格が悪そうだ」


 そう言っていくらか緊張した面持ちで、ライトはその紫の胃石を魔剣に埋まる紫の石へとつける。


 ヴンと小さく振動した石同士が発光し、魔剣の石に編み込まれていた魔術式が胃石へと移動したのを見届けて、ライトは胃石を長剣で割り砕いた。


 割った胃石とは別に、魔剣に埋められた紫の石がパキリと小さな音を立てたことに気づいたライトは、そっとそちらを振り返る。


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