フライング・プラム

敷島 怜

序章 遠の朝廷



 時は今から千年ほど昔。


 東の果ての海に、九つの国から成るキュウコクという島があった。


 キュウコクから狭い海を隔てた北東の方角には、ポンシューという長い長い島が、やはり北東へとのびている。

キュウコクの東でポンシューの南側には、イヨノニナというキュウコクの半分くらいの島があり、ポンシュー、キュウコク、イヨノニナの三つの島を合わせてイコクという国を形成していた。



 その頃のイコクの首都はヘーアンといって、ポンシューの真ん中よりちょっと南西方向にズレたチャゲス地方にあった。

ヘーアンを治めるマアト朝廷の王は、大昔に天から下った神の子孫であると言い伝えられていた。



 イコクにおいては、土地や奴婢などの財は王とそれを取り巻く宮廷貴族たちが一手に握っていたので、ヘーアンの都は貴族が好むきらびやかな王朝文化で飾り立てられ、その錦絵のような豪奢な様子は欠けることを知らぬ満月と例えられたものだった。



 だが、満ちてしまった月はその瞬間から欠け始める。

ひとたび都の門を出れば風景は一変し、野盗やごろつきが跋扈し累々と屍が転がる地獄絵図のような世界が広がっていた。



        *



 話をキュウコクに戻そう。


 島の北端に位置するイノムラサキの国は、古くから島全体を束ねる要の地であったが、マアト朝廷はこの地に全キュウコク統治のための出張所を置くことにした。


 北の海岸にあるカタハのみなとから南東へ13キロほど内陸の、ツフローといういにしえの王宮跡に縦横2キロメートルほどの正方形の都市を作り、トーノミアと名付けた。


とお朝廷みかど」という意味である。











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