第3話―――誰もいない教室
教室に辿り着いた。
放課後で誰もおらず、昼下がりの太陽の光が窓から差し込んでいる。水曜日は六限 目まででその日の授業は十四時半過ぎに終わる。
あかねは窓際の自分の席についた。外に目を遣る。斜め左下を見ると、下の階の渡り廊下が見え水色の作業服を着た男性清掃員が床をモップで拭いている姿が見えた。
あかねは机に目を戻し、中を覗いた。教科書が、何冊か重ねてある。
(あれ? 携帯は?)
さらに腰を屈め、一番奥を覗いた。
(……あった)
あかねは安堵の息を漏らしながら手を伸ばした。自分のスマホを掴み、奥から引っ張り出した。屈んだままで、それを軽く手でいじる。
ふと、思った。
(……こんな奥に?)
全く思い当たる節はなかった。記憶にないのだ。授業中教師に見えないようにそれを触っていたところまでは憶えている。その後はスカートのポケットに入れたはずだ。あかねは気づいたように我に返った。
(いけない……沙耶を待たせてある)
そう思い、立ち上がろうとした次の瞬間だった。突然、
「ドン、ドン!」
激しく叩きつけるような音が鳴り響き、あかねは咄嗟に身を屈め、上を向いた。
思わず唾を呑み込む。同時に怪訝に思った。
なぜなら、ここは最上階だからだ。屋上は人が入れない。出入口もなくただの平坦な面に過ぎない。
しばらく茫然としたままでいると、音が鳴り止んだ。
あかねは溜息を漏らし、身を起こそうとした。
すると、机の中に、何か目につく物があった。
?
見ると、茶色の封筒が入っていた。
訝しげにそれを手にとった。
表裏を見ても何も書かれておらず、糊などで封もされていない。
あかねは戸惑いながらそれを窓から差してくる光に照らし、中を透かした。
紙が入っているのが見える。
少し考えた後、椅子に腰を掛けて封の中からそれを取り出した。
手紙だろうか。折られたそれを、恐る恐る広げた。
一枚の便箋だった。
見ると、横書きでそれを埋め尽くすようにワープロ文字で何かが書かれてある。……文字化け?
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あかねは首をかしげて、それを封の中に戻そうとした。
が、何かに気づいたようにもう一度広げ直した。それをじっくりと見返す。
「これって……」
慌ててカバンの中から筆箱を出し、赤ペンを手に取りキャップを外した。紙に書かれてある文字列に目を通しながら、丸で囲み始めた――
「……嘘でしょ……」
彼女はそう呟き、周囲を見回した。
そして、急ぐように手に持っていた紙を折り畳み、ブレザーの内ポケットに入れて立ち上がろうとした。
突然、地面が揺れ始めた。
かなり激しい揺れだ。
あかねは目を泳がせて周囲を見渡した。
奇妙だ。
周りの机は一切動いていない。
震動しているのは自分の机だけだった。
揺れがさらに激しくなった。
あかねは咄嗟に机にしがみついた。
ふと、何か気配を感じ、そーっと机の下に目を遣った。
「…………!」
「もう!」
沙耶は少し苛立ち気味に教室に足を踏み入れた。中に目を遣って、彼女は思わず溜息をついた。
「……あかね? 何やってんの? 早く帰ろうよ」
彼女は窓際の席にいた友人に声をかけた。見ると、彼女は俯いて椅子に座っている。
返事はない。
「……え? もしかして、寝てるとか?」
沙耶は、呆れた表情でそちらへゆっくりと歩いて行った。近づいて友人の肩に手をやり少し揺さぶった。
「あかね? 起きて! こんなとこで寝てないで――」
ふとあかねのワイシャツに何かが落ちた。
「……ん?」
沙耶は息を呑んだ。
それは、ポタポタと滴り続けた。思わず仰け反って手を離した。
瞬く間に、赤黒い沁みが白いシャツを染め上げていく。
「……! あかね! 大丈――」
我に返り、再び近づこうとした瞬間、あかねの体が崩れるように地面に倒れた。
沙耶は目を剥いた。
仰向けに倒れた親友の両目は真っ赤に染まり、そこから血の涙が溢れ出ていた。
「きゃあぁぁぁぁぁ――――!」
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