第2話―――水曜日の放課後

「ねぇねぇ聞いた。また近くのデパートの屋上に雷落ちたんだって」


 下校帰りに、沙耶さやは言った。


「向かいのマンションにも、落ちたって聞いたけど」


 黒髪で短髪のあかねは、驚く様子もなく言葉を返した。

 見た目はすらっとしてるが、女子の中では背が高く、バスケットボールでもやってそうな体格だ。しかし、運動は大の苦手で、沙耶と同じ文化系クラブに所属する。

 成績も人並み。とりわけ、クラスにおいての発言力もあるわけでない。

 だが、沙耶は常日頃から感じていた。

 隠していても、自然に滲み出る育ちの良さというのだろうか。

 根拠のない頼もしさ。

 その美形な顔つきに反比例して、声が低いのもその要因の一つかもしれない。沙耶は、そんなあかねに言った。


「この辺りヤバくない? もし、人に落ちたら……」


「……大丈夫だよ。雷を避けるのが、避雷針だから」


 彼女があまり関心なさそうに言うと、沙耶は心配気な様子で問いかけた。


「あかね? 大丈夫? 何か疲れてる?」


 それまで無関心な素振りを見せていたあかねが、突然、沙耶の方を向いた。

 何かを言おうとすると、すんでのところで口ごもり視線を下へ逸らした。それを見て、沙耶がまた尋ね返した。


「……何かあったの?」


 すると、あかねは怯えたような顔つきで言った。


「……白い女の人を見た」


「……え?」


「昨晩。家の中で」


 沙耶の表情が途端に強張った。あかねは、さらに言った。


と似てた。あの写真もう一度見せて。スマホにまだ入ってるでしょ?」


 すると、それを拒否するように沙耶は顔を引き攣らせ、両手を前に出して言った。


「ねぇ……もう止めない? あの記事を追いかけるの」


 沙耶の言葉が耳に入っていないように、あかねが話を続けた。


「昨日、家で調べてたら、を発見したの。例の森の写真。失踪した高校生の学ランが埋まってた。その木をクローズアップしたら……」


 そう言いながら、あかねはブレザーの内ポケットをまさぐった。


「……! ヤバい!」


 あかねは、思わず声を上げた。


「どうしたの?」


 沙耶が眉を寄せる。


「携帯がない……!」


 あかねは焦った表情で、今度はカバンの中を探り始めた。沙耶が戸惑いながら問いかけた。


「どっかに置き忘れた?」


「あぁ――……。教室だ。行ってくる!」


 急いで校舎に引き返そうとしたあかねを引き止めるように、沙耶は声を上げた。


「一緒にいくよ!」


 あかねは少し面倒くさそうに手を横に振って、大きな声で言い返した。


「いいよ! すぐ戻ってくるから! ごめんちょっと待ってて!」

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