三振り ソレナリのポトフ

「行くぞパンドラ‼」

「来いエルピス‼」

「勇者矛盾斬‼」

「魔王矛盾斬‼」

 二人の最強の剣技は衝突し、大矛盾が発生する。

 エルピスは希望神、パンドラは絶望神となる。

 そして男性刀剣化は解除され、別の大矛盾へと塗り替えられる。

 それが何かはこれから知ることになるだろう。

 というより、それを探っていくのがこの世界の本質だろう。

 矛盾世界は流転する。流転し続ける。矛盾が無くなることなどないのだから。


「ポトフ食べるか、サキ?」

「食べるー」

 マキはサキに確認を取り、皿にポトフを注いでいく。

「ほら食べな」

「美味しいー」

 サキは美味しそうにマキの作ったポトフを口に流していく。

「お前、両性神になったんだっけ?」

「うん、クニヤマくんと一緒に」

「クニヤマって男だっけ。アイツ何で大矛盾受けなかったの?」

「聖なる力で退けたらしいよー。詳しくは本人も知らんらしー」

「いい加減だな。お前もそいつも」

 そう言いながら、マキも自身のポトフを食す。まあいつも通りの出来だな、と70点くらいの評価をする。マキはソレナリのポトフと呼ばれる、フタナリのエルフサキの姉だ。ポトフが大好きでポトフしか作らないからそう呼称されるようになったとか。

「ジャガイモ美味いー」

「ソーセージも良いだろ」

「うんー」

 サキがやたら美味そうに食べるから、そこまでではないだろとマキは苦笑する。ポトフ作りは趣味だが、趣味など所詮趣味でポトフ屋のポトフには遠く及ばない。

「食戟のチェンか……」

 ここら辺で一番ポトフ作りが上手い料理人。いや、ポトフが美味い料理人。美味いポトフを作るのが上手い料理人。本分は中華料理らしいが、マキにポトフを教えて貰ってからレパートリーの一つになったとか。

「うーん。食戟のチェンのポトフも好きだけど、私はお姉ちゃんのポトフのが好きだな」

「気を遣うな。そこまで上手くないのは自負している」

「いやいや、気なんか遣わないよ。食戟のチェンのをヒロアカや呪術だとすると、お姉ちゃんのは原寛貴作品なんだよ」

「お前の譬えはよく分からんな。あとそれ褒めているのか? 勝っているのか、私は?」

「勝ち負けじゃないよー。料理はー。好みだよー」

 そりゃあまあそうだろうが、好き嫌いの話を持ち出すということはつまり、単純な『美味さ』では比べるに落ちるということだろう。いや、それはそうだろう。食戟のチェンは店でポトフを注文され金を貰っている。マキのように妹に振舞っているだけの家庭料理をそれと比較すること自体烏滸がましい。マキは少々思い上がった自身の熱を冷ますように、ポトフを口に流し込み、少々舌を焼く。

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流転の矛盾世界 原寛貴 @mrndx033

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