第19話 簡単なトレーニングをご指導いたします

宿に戻った俺たちは、夕食の余韻を味わいながら部屋でくつろいでいた。リュシアが完璧なサポートをしてくれたおかげで、今日の冒険も無事に終えられたが、次の冒険に備えて少し体力をつける必要があると感じていた。


そんな俺の気持ちを察したかのように、リュシアがにこやかに話しかけてくる。


「ご主人様、今日の冒険も素晴らしいものでしたね。ですが、これからさらに高難易度のダンジョンを目指されるなら、少し体力を強化されてはいかがでしょうか?」


「そうだな……確かに、もう少し体力があったほうがいい気がする。でも、どうやって鍛えればいいんだ?」


「私が簡単なトレーニングをご指導いたします。無理のない範囲で進めますので、どうぞご安心ください。」


リュシアの申し出に従い、俺は軽い体力トレーニングをすることに決めた。リュシアが持ち出したのは、適度な負荷で体を動かせる簡単な器具やストレッチ用のマットだ。


「まずはストレッチから始めましょう。柔軟性を高めることは怪我の防止につながります。」


リュシアが見本を見せながら、優しく指導してくれる。俺が動きをぎこちなく真似しようとすると、リュシアがすかさず手を添えてポジションを調整してくれた。


「こちらの足をもう少し伸ばしてみてください。そうです、素晴らしいですよ、ご主人様!」


「う、うん、ありがとう……けっこう硬いな、俺。」


「大丈夫です。これから少しずつ柔らかくなっていきますから、焦らなくて大丈夫ですよ。」


リュシアの手取り足取りのサポートでストレッチを終えると、次は軽い筋力トレーニングに移った。


「では、腕立て伏せを試してみましょう。ご主人様、まずは10回を目指してみませんか?」


「お、俺にできるかな……?」


「もちろんです。私がしっかりサポートいたしますので、どうぞご安心ください。」


腕立て伏せの体勢を取ると、リュシアが後ろに控え、必要があれば力を貸す準備をしてくれていた。俺が1回目を終えると、リュシアが拍手をしてくれる。


「素晴らしいですね! ご主人様、とてもいいフォームですよ。」


「いや、でも結構きついな……。」


「ご無理は禁物です。もし難しいようでしたら、少しだけお手伝いさせていただきますね。」


そう言うと、リュシアが優しく手を添え、俺の体をほんの少し支えてくれた。そのおかげで、思っていたよりも楽に動かせる。


「どうですか? 負荷が軽くなっていませんか?」


「ああ、すごく助かる……。」


その後も、リュシアが絶妙なタイミングでサポートを入れてくれるおかげで、10回を無事にこなすことができた。


「ご主人様、素晴らしいです! 初めてでこれほどスムーズにこなせるなんて、さすがです。」


「いやいや、正直言うと、リュシアがほとんど助けてくれたからだろ……。」


「いえ、ご主人様の努力があってこそです。私は少しお手伝いしただけですから。」


次に腹筋やスクワットを試してみたが、そのたびにリュシアが的確にサポートしてくれるため、疲労感よりも達成感のほうが大きかった。


最後に軽いランニングを部屋の中でシミュレーションするような運動を行い、トレーニングは終了となった。


「お疲れ様でした、ご主人様。今日はこれくらいにしておきましょう。」


「ふぅ、ありがとう、リュシア。なんか、俺の体力強化っていうより、お前に甘えてるだけだった気がするな。」


「そんなことはありません。これも立派な第一歩です。少しずつ、ご主人様がより強くなられるお手伝いをさせていただければ、私も嬉しいです。」


リュシアがそう言いながら冷たいお水を差し出してくれる。その気遣いに心から感謝しつつ、俺は水を一口飲み、気持ちを整えた。


「これからも、よろしく頼むよ、リュシア。」


「はい、ご主人様。どうぞいつでもお任せください。」


リュシアの笑顔とともに過ごすこの時間が、俺にとって最も癒される瞬間だと実感しながら、次の冒険への期待を胸に抱いた。

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