第18話 どうぞ、ご主人様。あーんしてください。

鍛冶屋を後にした俺たちは、少し豪華な食事を楽しむために街の評判の良いレストランへと足を運んだ。リュシアが用意してくれた冒険の収益で、今日は少し贅沢をしても良いという気持ちになっていた。


店内は高級感があり、温かな照明と心地よい音楽が流れている。案内された席に座ると、リュシアが自然に隣に腰を下ろした。彼女の笑顔はどこまでも穏やかで、疲れた体を癒してくれる。


「ご主人様、本日の冒険もお疲れ様でした。どうぞ、ゆっくりおくつろぎください。」


「ありがとう、リュシア。でも、俺だけ贅沢してるみたいで悪いな。」


「そんなことはございません。ご主人様が頑張られた成果ですから、どうぞお気になさらず楽しんでください。」


リュシアの言葉に甘えることにして、俺はメニューを眺める。豊富な料理の中から、リュシアが「ご主人様のお好み」として勧めてくれる料理をいくつか注文した。


やがて料理がテーブルに運ばれてくると、芳醇な香りが鼻をくすぐり、思わず食欲が湧いてくる。大皿に盛られたジューシーなステーキや、鮮やかな彩りのサラダ、香ばしく焼き上げられたパンが並んでいる。


「リュシア、すごく美味しそうだな。」


「そうですね、ご主人様。どうぞ、召し上がってください。」


俺がナイフとフォークを手に取ろうとすると、リュシアがそっと手を止めた。


「ご主人様、よろしければ私が取り分けましょうか?」


「えっ、そこまでしなくても大丈夫だよ。」


「いいえ。これも私の務めですから、どうかお任せください。」


そう言うと、リュシアは器用にナイフとフォークを操り、一口サイズに切り分けたステーキをフォークに刺して差し出してきた。


「どうぞ、ご主人様。あーんしてください。」


その言葉に少し照れながらも、俺は口を開けてリュシアが差し出すフォークを受け入れる。一口頬張ると、肉の柔らかさと旨味が口いっぱいに広がった。


「……美味い。リュシア、これ本当に美味しいよ。」


「ふふ、気に入っていただけて良かったです。次はこちらのサラダをどうぞ。」


リュシアは次々と料理を取り分けてくれる。その間も、俺が口元にソースをつけると、すかさずナプキンを手にして優しく拭ってくれる。


「ご主人様、急がなくても大丈夫ですよ。どうぞゆっくり召し上がってください。」


「リュシア、本当に何から何までやってくれるんだな……。」


「はい、ご主人様のためですから。それに、こうしてお世話できるのは私にとっても幸せなことです。」


その言葉に、心の中が温かく満たされる。食事をしているだけなのに、リュシアの気遣いと優しさに触れるたび、どこか満たされた気分になる。


「次はお飲み物ですね。ご主人様、お水をどうぞ。」


リュシアがグラスに注いでくれた水を差し出し、俺はそれを受け取る。まるで特別な待遇を受けているようで、贅沢すぎると思いつつも、その心地よさに身を任せてしまう。


「リュシア、いつも本当にありがとう。お前がいなかったら、俺はこんなに安心していられないよ。」


「とんでもございません。私の方こそ、ご主人様のそばにいられることが何より嬉しいのです。」


リュシアの笑顔に、また自然と顔がほころんだ。食事が進むにつれ、リュシアと一緒に過ごすこの時間が、俺にとって何よりの癒しだと改めて感じた。


豪華な食事を終え、満足感に浸りながら店を後にする。リュシアの優しさと料理の美味しさ、そして何より一緒に過ごせる時間の特別さを噛み締めながら、俺たちは宿への道をゆっくりと歩き始めた。

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