第16話 ご成長の速さ、さすがでございます!
ダンジョンの奥に進むにつれ、少しずつ雰囲気が変わってきた。道幅は狭まり、周囲を覆う木々の高さも増していく。薄暗い光が差し込む中、足元に転がる石や苔が不気味に目立つ。
「ご主人様、もう少しでボスモンスターが現れるエリアに入ります。どうかご準備を整えてください。」
リュシアが静かな声で告げる。俺は剣の柄を握り直し、少しだけ深呼吸をして気持ちを落ち着けた。これがダンジョンのボス戦――俺にとって初めての大きな挑戦だ。
「分かった。お前が隣にいるなら、大丈夫だろう。」
「もちろんです、ご主人様。私はどんなときもおそばでお支えいたします。」
その言葉を聞くだけで、不思議と力が湧いてくる。俺たちは慎重に足を進め、広間のような空間にたどり着いた。その中央には、鋭い爪と赤く光る目を持つ巨大な狼型のモンスターがいた。体には黒い毛が覆い、低い唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。
「リュシア、これがボスか?」
「はい、『シャドウウルフ』と呼ばれるモンスターです。素早い動きと強力な一撃が特徴ですが、弱点は心臓部です。どうかご注意ください。」
俺は剣を構え、リュシアに軽く頷いた。
「行くぞ!」
シャドウウルフは低く構えたかと思うと、一気に突進してきた。そのスピードに驚きつつも、リュシアの指示が頭をよぎる。
「ご主人様、右に回避してください!」
リュシアの声に従い、ぎりぎりで右に飛び退く。その直後、シャドウウルフの爪が地面を裂き、土埃が舞い上がった。
「次の攻撃の隙を狙ってください!」
リュシアが鋭い観察力で敵の動きを見極める。俺はその言葉を信じ、ウルフが着地のバランスを崩した瞬間を狙って剣を振り下ろした。
「これでどうだ!」
剣が見事に命中し、ウルフが大きくうめき声を上げる。その隙を見逃さず、さらに追撃を加える。最後の一撃で、シャドウウルフは地面に崩れ落ち、その体は徐々に光となって消えていった。
「やった……倒したぞ!」
息を整えながら振り返ると、リュシアが満面の笑みを浮かべながら拍手をしてくれていた。
「見事です、ご主人様! さすがの一言に尽きます!」
「いや、リュシアが指示してくれたおかげだろ。お前のサポートがなかったら、こんな簡単にはいかなかったよ。」
「とんでもございません。ご主人様が持つ力こそが、この勝利をもたらしました。」
その瞬間、俺の体が不思議な感覚に包まれた。全身に力がみなぎり、どこか体が軽くなったように感じる。次の瞬間、リュシアが小さく手を叩いた。
「ご主人様、レベルアップです! ご成長の速さ、さすがでございます!」
「これが……レベルアップか。」
俺は自分の体を見下ろし、何か変わったような感覚に浸る。初めてのレベルアップがもたらす喜びと達成感に、自然と顔が緩んだ。
「ご主人様、本当に素晴らしいです。この調子でどんどん強くなられることでしょう。」
リュシアの笑顔と言葉が、これ以上ないほどに心地よかった。俺は彼女の手を借りて立ち上がり、深く息を吸い込んだ。
「ありがとう、リュシア。これからも頼りにしてるよ。」
「もちろんです。ご主人様の成長をこれからも全力でお支えいたします。」
俺たちは少しの疲れと、何より大きな達成感を胸に秘め、ダンジョンの出口へと向かって歩き出した。初めてのボス戦での勝利――そして初のレベルアップ――それは確実に新しい自信を俺に与えていた。
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