第13話 ただ……変な気分になるっていうか…
リュシアがそっと俺の頭を撫でてくれる。その動きはまるで子どもをあやすようで、柔らかな指先の感触が心地よい。温かな手のひらが髪を通るたび、緊張していた体がほぐれていくのが分かる。
「ご主人様、今日も本当にお疲れさまでした。こうして、無事にお休みいただけることが何よりです。」
リュシアの声は優しく、耳に心地よく響く。その言葉に応えるように、俺は軽く目を閉じ、深呼吸をする。
「ありがとう、リュシア。お前のおかげだよ。本当に……。」
「いえ、ご主人様。私はただ、ご主人様のおそばでお仕えしているだけです。それでも、少しでもお力になれているなら光栄です。」
彼女は微笑みながら、指先を滑らせるように頭を撫で続ける。その手つきがあまりにも心地よく、俺は自然と深くリラックスしていく。だが、リュシアのぬくもりを感じるほどに、心のどこかに小さなざわつきが生まれていくのも感じていた。
「……リュシア、その……撫でられると、なんか落ち着くんだけどさ。」
「ありがとうございます、ご主人様。お疲れが癒されるのでしたら、何よりです。」
彼女は一切変わらぬ柔らかさで答えながら、撫でる動作を続ける。その指先の感触が妙に意識に残る。気持ちがほぐれる一方で、俺の体が少しずつ、落ち着かない反応を見せ始める。
「えっと、リュシア、なんというか、その……。」
自分でもどう言葉にしていいか分からない。体が自然とモゾモゾと動いてしまうことに気付き、焦りが募る。けれども、リュシアはその様子にも微笑みを崩さず、穏やかに言葉を返す。
「ご主人様、どうなさったのですか?」
「いや、別に……なんでもないんだ。ただ……変な気分になるっていうか……。」
言葉を濁していると、リュシアはふわりと笑みを浮かべ、さらに手の動きを優しくする。まるで、こちらの動揺を包み込むかのようだった。
「ご主人様、どうぞそのままでいてください。どのようなお気持ちでも、私はすべて受け入れます。」
「リュシア……。」
彼女の瞳は真っ直ぐに俺を見つめている。その目には一切の戸惑いや疑問がなく、ただひたむきな優しさが宿っていた。その純粋さに逆に恥ずかしくなり、目を逸らそうとするが、彼女はそっと俺の頬に触れる。
「ご主人様がどのように感じられても、それは自然なことです。どうかご自分を責めないでくださいね。」
その言葉は、ただ受け入れられるだけではなく、許されている感覚をもたらす。それに、どこか胸がじんと熱くなった。
「リュシア……本当にお前は、俺を全部肯定してくれるんだな。」
「はい。ご主人様は、いつでも私にとって一番大切なお方ですから。」
リュシアの指先が頬を撫でる動きが一瞬止まり、彼女の顔がゆっくりと近づいてくる。俺の心臓は早鐘のように鳴り響き、息をするのも忘れそうになる。
「リュシア……。」
俺が名前を呼んだその瞬間、彼女の唇がそっと俺の唇に触れた。温かく、柔らかな感触が、静かな時間の中で全身を包み込む。優しさそのもののようなそのキスは、言葉を超えた何かを伝えてくれるようだった。
キスが終わると、リュシアは微笑みを浮かべ、優しく囁いた。
「ご主人様、これからもどうかおそばにいさせてください。私はいつでも、ご主人様を支えるためにここにおります。」
その瞳は真っ直ぐに俺を見つめ、揺るぎない誓いを感じさせた。俺は言葉が出ないまま、ただ頷くことしかできなかった。
静かな部屋に、二人の間に漂うぬくもりだけが残る。そして、そのぬくもりの中で、俺たちは一つの絆を確かに感じ取っていた。
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