第12話 ご主人様は本当によく頑張られました

リュシアの優しい声が耳に響いたかと思うと、ふわりと温かな感触が俺を包み込んだ。驚いて目を見開くと、リュシアがそっと俺を抱きしめていた。心地よい体温と彼女から漂う優しい香りが、全身を穏やかに包み込む。


「ご主人様、本当に今日一日、お疲れさまでした。影森も、風刃の回廊も、とても大変でしたね。」


彼女の声は、耳元で囁くように柔らかく響く。その言葉には、ただの労い以上のものが込められている気がした。


「いや、俺はそんな大したこと……。」


「いいえ、ご主人様は本当によく頑張られました。どんなに難しい状況でも、最後まで諦めずに戦い抜かれました。それはとても素晴らしいことです。」


リュシアの腕に包まれながら、彼女の言葉が胸にしみていく。今まで誰にもこんな風に褒められたことなんてなかった。それが不思議なほど心地よくて、自然と力が抜けていく。


「でも、俺一人じゃどうにもならなかった。リュシアがいたからこそ……。」


「ご主人様、どうかそのようなことはおっしゃらないでください。私はただ、ご主人様のお力を引き出すお手伝いをさせていただいただけです。それ以上のことは何もしておりません。」


そう言いながら、リュシアは少しだけ腕を緩めて俺の顔を覗き込む。紫色の瞳がまっすぐに俺を見つめ、その中にどこまでも深い優しさを湛えている。


「ご主人様の勇気、ご判断、そして行動力――すべてがこの結果をもたらしました。それをどうか、もっとご自身で誇ってください。」


その言葉に、思わず目を伏せてしまう。どこか気恥ずかしさがあったが、彼女の言葉は心の奥底に響いていた。


「……ありがとう、リュシア。」


「こちらこそ、ありがとうございます。ご主人様のおそばで、このようにお仕えできることが私の幸せです。」


彼女は微笑みながら、そっと俺の頭を撫でてくれる。その動きがあまりにも優しくて、全身の緊張が解けていくのを感じる。


「ご主人様、今日一日、たくさん頑張られましたね。どうぞ今夜は何も考えず、ゆっくりお休みください。」


その言葉には、ただ眠りを促す以上の意味があった。俺のすべてを受け入れ、肯定してくれる温かさがあった。


「リュシア……お前がいてくれるだけで、俺はなんとかやっていける気がするよ。」


「それで十分です、ご主人様。そのように思っていただけることが、私の存在理由ですから。」


彼女は微笑みながら、そっと腕を解いた。だが、その温もりはまだ残っていて、俺の胸の中をじんわりと満たしていた。リュシアが隣にいる安心感の中、俺は深く息をつき、少しずつ目を閉じた。どんな夢が見られるのか――それすら楽しみになるような、穏やかな夜が始まった。

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