(15)

 その時、絵に描いたような……黒塗りの高級車が近くに駐車。

 走行音が、ほとんど無い。

 多分、最新式の電動車EVだ。

「おい、何しとっとか?」

 車の中から……やたらとガタイがいい……何と言うか……ヤー公の中でも、結構でかい「組」のボスなんだろ〜なぁ〜、って感じの男が出て来た。

 威圧感がハンパない。

 俺が空手や柔道の有段者でも、喧嘩売りたくない雰囲気が……。

 着てるのは……俺みたいなのでも超高級品だと判る……クリーニングから返ってきたばかりです、って感じの皺1つ無い背広とコート。

「誰? この、いかにもチンピラって感じの人?」

「知らん。青龍敬神会系列の組の奴でも……3次団体よりは下だろうな」

 赤いコートの女と、青いバイクの女は……呑気な会話を交し……。

「おい、お前らが、こん騷ぎの……ん?」

 ナイフを持った子供が一斉に、ヤクザの親分っぽい男に突撃。

「へっ?」

 腹・足・背中、次々と刺され……。

「……あ……普通の服だったのか……防刃繊維とかじゃなくて……」

 青いバイクの女が……唖然とした口調で、マヌケなのか的確なのか良く判らないコメント。

「あ……あ……あ……な……なんじゃ……こりゃ?」

 ドンっ‼

 ヤクザの親分っぽい奴は……あっさり地面に膝を付き……。

 その周囲の路面は……血で真っ赤に染まり……。

「おじさま♥ あたし、おじさまみたいなのがタイプなの♥ あたしのブッといモノを咥えてもらえたら、うれしいな♥ サービスしちゃうかも♥」

 小学生の女の子にしか見えない奴が……そのヤクザの親分にしか見えない奴の口を無理矢理こじ開け……拳銃を……。

 ドンッ‼

 それは、拳銃の発射音じゃなかった。

 拳銃を発射しようとした……小学生の女の子にしか見えない奴が地面に叩き付けられた音。

「あなたの新しい仲間?」

「まあな……」

 小学生の女の子にしか見えない奴を一瞬でブチのめした誰かの姿は……無い。

「え……え……ええッ?」

 良く見ると……路面が、所々、凹んでいる。まるで……足跡のように……。

「でも……あなたも判ってるでしょ……私の護衛、全員でも……いや、ヤクザの組の十や二十じゃ……私自身の戦力の百分の一にもならないって……」

「ぶへっ?」

 次の瞬間、ついさっき助かったと思った、ヤクザの親分らしい奴は……目と鼻と口から血を吐き出し……。

「こ……これ……魔法?」

「ち……違う……何も……何も感じない……」

「感じないって何を?」

使……

 ゴオンッ‼

 更に轟音。

 今死んだ(多分)ヤクザが乗ってきた車のガラスにヒビが入り……そして、そのガラスが赤黒く染まっている。

「これも……魔法じゃないの?」

「こ……こんな魔法なんて聞いた事も無い」

「おい、『魔法使い殺し』って……何なんだよッ?『魔法使い殺し』って、どいつも、こいつも、こんな真似が……」

「わ……判らない……」

「安心しろ……この力にも欠点は有る」

 その声の主は……青いバイクの女……。

「こいつは私の動きが読める。しかし、私が、その動きをした意図や意味までは読めないし、私の攻撃は読めても、どう避けるのが最適かまでは判るとは限らない」

 な……何を……呑気に解説……ん……?

 赤いコートの女の片腕に手錠……そして、その手錠のもう一旦は……バイクの荷台のパイプ状の部品にかけられている。

「や……やってくれたわね……でも……」

 赤いコートの女の声も呑気だ。

「次の弱点だ。こいつの身体能力や肉体の強度は常人並だ。そのバイクには爆弾が仕込んである。そして、起爆装置は、私の胸の皮膚に貼り付いてるセンサと連動してる。私の鼓動が一〇秒以上途絶えたらドカ〜ンだ」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 おい、ここ、町中だぞッ‼

 まだ、逃げてない奴が居るんだぞ、俺達含めてッ‼

「本気?」

「実験に御協力願いたい。『あんたの能力で、私が言ってる事が本当か嘘かを見抜けるか?』って実験にな……。ああ、そうだ、もし、私が本当の事を言ってたのに、私を殺してしまった場合だが、その手錠の鎖は、多分、あんたの腕より頑丈だ。何かを破壊して逃げるのなら、手錠の鎖よりも自分の腕を破壊する事を推奨する」

 お……おい……何だよ、このサイコ野郎ッ?

 いや、サイコ野郎だから……こんな化物を前にしても落ち着いてられるのか?

「そして、もう1つの弱点だ」

「えっ?」

 土屋が何かに感付いた……らしい……その次の瞬間……。

 ドン……ドン……ドン……。

 武器を持ったガキども(少なくともガキに見える連中)が次々と倒れる。

「あんたの能力にとって、『魔法』は『仮の力』『紛物まがいものの力』だ。だから、『魔法』では、あんたの力を検知出来ない代りに……あんたも『魔法』系の力を感知出来ない。あんたは、この少年兵どもに金縛りをかけた『魔法使い』がどこに居るか判らない筈だ」

「してやられたって所ね……まぁ、みたいね」

「その通りだ。お互いにやりにくいな。と言う訳で、大人しく引いてもらえると有り難い」

「判った……今回は降参する」

 その一言で……青いバイクの女は、赤いコートの女に、手錠の鍵らしいモノを投げて渡す。

「お……おい……」

 逃げ遅れた通行人の1人が流石にツッコミを入れるが……。

「大丈夫だ、こいつは……約束だけは守る」

 その言葉の通り……手錠を外した女は……立ち去って行く。

 そして……まるで……そうだ……聖書のモーゼか何かのように……通行人達は……赤いコートの女の為に道を開けた。

「あなたの言った通り、在庫一掃セールなんで、私の護衛は好きにしていいわ。今時、少年兵なんて、イメージが悪いにも程が有るんで、どうしようか迷ってたの」

「そうか……」

「最後に……大人しく引く対価に1つ訊かせて。バイクの爆弾は本当だったの?」

「今回の実験で、少なくとも、話し手が私であれば、真実と嘘を混ぜた場合、あんたは、どこからどこまでが嘘かを見抜けない事が判明した」

「何故、それを教えるの?」

「あんたが、それを知った方が、次に戦う時に、こっちの選択肢は増え、あんたの自由度は減る」

「じゃあ、何が嘘?」

「バイクの爆弾は本当だ。ただ……手錠の鎖を思いっ切り、左右に引いてみろ」

 赤いコートの女が……言われた通りにすると……。

 プチ……。あまりにも……あっさりと……切れた……。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 しばしの静寂。

 だが、その意味が理解出来た時……俺を含めた周囲の連中は……恐怖の叫びをあげ……。

 そして……その騒ぎに紛れて、青いバイクの女は姿を消していた。

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