第6話 玲子
翌日の昼休みに、唐崎由紀は教室でクラスメイトの遠藤猛に再び声をかけられた。
「唐崎さん、映画のチケットがあるのだけど、明日の土曜日どうかな?」と猛。
「悪いけど、用事があるの」と由紀。
「また範経かい?」と猛。
「あなたには関係ないでしょ」と由紀。
「あいつと付き合ってるわけじゃないんだろ」と猛。
「そんなお遊びじゃないわ」と由紀。
「俺はまじめに交際を申し込んでいるんだ」と猛。
「だから嫌なのよ」と由紀。
「なぜだよ」と猛。
「自分は成績よくてスポーツができて見かけもまあまあだって思ってるのが顔に出てるからよ」と由紀。
「客観的に見て事実だろ。何が悪いんだ」と猛。
「悪くないわ。ただ嫌いなだけ」と由紀。
「また振ったんだ。由紀ってもてるよね」と祥子。
「うんざりだわ」と由紀。
「ねえ、週末にどんな用事があるの?」と学級委員の滝沢玲子が尋ねた。
「私の家でお食事会よ」と由紀。
「私も入れてくれないかしら」と玲子。
「それはできないわ」と由紀。
「なぜ?」と玲子。
「範経がいるから」と由紀。
「でも混ぜてくれるくらいいいじゃない。仲良くするから」と玲子。
「だめよ、あなた範経をシカトしてるじゃない」と由紀。
「だってこの雰囲気じゃ話しかけられないわ」と玲子。
「隣の席なのにガン無視なんてひどすぎるでしょ。今日だって範経があなたの消しゴムを拾った時も」と由紀。
「ごめんなさい。次からちゃんと話すから、いいでしょ?こっそり入れてよ」と由紀。
「今回はダメだわ。範経の誕生日会だから。あなたがハピバースデーツーユーって一緒に歌うなんて不自然すぎるでしょ。いくら範経だって興ざめしちゃうわ」と由紀。
「それもそうね、残念だわ」と玲子。
「なぜそんなに塚原君と仲がいいの?いつからの知り合いなの?」と玲子。
「小学生の時からよ。私は勉強も運動も苦手ないじめられっ子だったのよ」と由紀。
「今からでは想像もつかないわ」と玲子。
「引っ込み思案の私を範経がかばってくれたのよ。苛められたら助けてくれた。それ以来友達なの。それだけのことよ」と由紀。
「そうなの。ちょっと信じられないわ。あの陰気な塚原君がいじめっ子と戦うなんて」と玲子。
「範経は強いわ。でもそれを人には見せない」と由紀。
「そうなのかしら。小っちゃくて痩せてるけど」と玲子。
「体格なんて問題ではないわ。人間の価値は力の強さじゃないから」と由紀。
「由紀ちゃんって真面目なのね。子供のときの恩を今も忘れないなんて」と玲子。
「そうじゃないわ。今だって守ってもらってるの」と由紀。
「そんなふうには見えないわよ。弟の世話を焼いてるお姉さんみたいだもの」と玲子。
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