《凛》
ペラ───ッ
新聞の最終ページを捲りながら、わたしは眉根を寄せる。窓に目をやる。気づけばもう夕暮れの時間だ。オレンジ色の光が窓から差し込む。
それはそうだ。目が疲れるほどわたしはこの新聞を読み返していた。しかし、まったく有力な情報はつかめない。汐梨の言葉の意味が、全く分からない。汐梨はわたしに何を伝えたかったのだろうか。汐梨はわたしに美湖の両親を調べてと言った。この新聞を読み、見つけた情報は、彼らの死因だけだ。汐梨は彼らの死因をわたしに調べさせたかったのだろうか。いや、違う気がする。汐梨の漂わせていたあの緊迫感。これだけをわたしに調べさせようとしていたようには思えない。
図書館閉館の音楽がわたしの耳を突く。考え事をしていたため、チャイムに、びくりと肩をふるわせる。わたしは、急いで新聞を片付け、帰路に着いた。
夕焼けの空が、真っ赤だ。血を思わせるほどの深紅の空に、わたしは再び大きく肩をふるわせた。
気付くと、わたしは走り出していた。
真っ赤な空に恐怖を覚えたからなのか、もっと違う理由なのか、何故かわたしは全速力で帰路へ着くのだった。
はぁはぁはあ
息を切らせながらたどり着いたのは家だ。
ドクンドクンと心臓が鼓動し、息はまだ荒い。鍵を取りだし、家に入る。
椅子に座り、一息を着くと、わたしは再びしおりの言葉の意味を考え始めた。
眠るまで、わたしは、言葉の真相を考えていた。
目を閉じ、わたしは直ぐに眠りに落ちた。
気づけば部屋は明るくなっていた。差し込む日差しで目を覚ます。その陽射しは、いつものような、優しいものでは無かった。鋭い狂気を孕んだ刺すような光だ。
何?
わたしは違和感を覚えつつも、今日は、仕事帰り、中央図書館に行くことにした。
支度を整え、会社に向かう。前を歩く、しおりの姿が目に止まった。あの日以来、しおりと会うのは今日が初めてだ。あの態度を見たあとでは、どう声をかけて良いのか分からなかったか、とりあえずいつものように声を掛ける事にした。
「汐梨────。」
なるべく平然と声をかけたつもりだったが、声は震えている。
わたしの声が彼女に届くと、汐梨はフッと振り返る。
わたしは向けられた汐梨の姿に知らず息を飲む。
それは汐梨────汐梨だが、別人のようだ。目の下にはくっきりと隈ができ、髪はパサパサに乱れている。そんな彼女の生気の感じられない目が、わたしを捉えた。彼女は声を発することなく、軽く頭を下げると、仕事場のほうへ、進んでいった。
わたしは、小さくなって行くしおりの後ろ姿を見つめながら、呆然と立ち尽くすのだった。
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