《┈第二部┈》第一章

《汐梨》

気付けばそこに美湖はいなかった。

辺りを見渡すが、美湖の姿は見つからない。

わたしは暗闇に一人という状況を理解し、絶望が心を覆う。

気づくとわたしは走り出していた。

逃げ出したい衝動にかられ────逃げることは出来ないのに、走り出していた。

絶望がわたしを襲い、ボロボロと涙がこぼれ堕ちる。


カチッ、カチッ、カチッ、カチッ

時計の音が盛大に鳴り響く場所。

そこを離れれば、音は小さくなり、やがて聞こえなくなり、静寂に包まれる。


わたしは暗闇の静けさの中、そんな不思議な場所を思い出していた。

ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ

無数の足音が響くのに、ここは、異様に静かだ。

その不可思議な状況が、わたしを深く、絶望に堕とした。

わたしはビクリと肩をふるわせ、振り返るか否か考える。

「ねぇ…。」

再び声がかかった。

恐ろしく冷たい、感情のこもらぬ声。

わたしの首は、思わず、後ろに回される。

わたしの目が、その場に佇む、人を捉えた。目に映るものに、わたしはゴクリと喉を上下させ、息を飲む。

そこにはには、佳代子────ではなく、女性が立っていた。

「恨めしい……憎らしい…許せない────!」

突如、女性は叫んだ。先ほどとは対照的に、激昂するような声で、女性は叫びつづけるのであった。

ふと、わたしの意識が薄れ始め、眠りに墜ちた。

────わたしは立ち尽くしている。

喪服?わたしは黒い喪服のような服を纏っている。

頬が濡れ、風が当たり冷たい。泣いていたのだろうか。なぜ、私は、喪服で泣きながら立つくしているのだろう。

ふと、手に係る重みに気づく。それは、葬式で見る、骨の入った箱のようだ。

「あなた」

突然背後から声がかかり、わたしは肩をふるわせる。

振り向くと、そこには、わたしと同様、喪服を着た女性が立っていた。先程の女性ではない、顔は、悲しみに染まり、疲れ果てた様子だ。女性は時折、顔を絶望にゆがめる。目の下には涙のあとがあり、泣き腫らした顔だ。その後ろには、教会が聳え建ち、曇天の空が教会を包む。そして、教会の中から、わたしのいる場所まで、葬列が続いていた。

突如、様々な感情がわたしの心に流れ込む。絶望、悲壮感、そんな感情が心を締付ける。逃げ出したい絶望に襲われ、意図せず葬列を抜け出し、わたしは走り出すのだった。


はぁはぁはぁはぁ────!!

息は切れ、バクンバクンと心臓が波打つ。

気づけば、わたしは十字路にいた。周りを建物が囲み、人が行き交う。山神十字路、と書かれた看板が目に留まる。しかし、それは、わたしの知る山神十字路ではない。行き交う人々も、現代の服装ではなく、教科書で見た昭和の服装のようだ。

まるでタイムスリップしたみたいで、わたしは困惑する。

そんな中────視界が闇に染まる。わたしはまた暗闇にいた。夢を見ていたようだ。

状況は変わらず、わたしを絶望が包む。

わたしは恐怖に苛まれ、泣きだすのだった。

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