《美湖》

わたしの意識はだんだんと眠りへと深く堕ちた。

___意識が少しづつ薄れてゆく。

セピア色に沈む木造の病室の中、時代を感じさせる服装の人々が心配そうな眼差しで少女を見下ろしていた。彼らはもうダメだ、もってもあと数時間だろう、と彼女の死を暗示するような言葉を口々に呟いていた。

その中、彼女の両親と思しき男女が泣き崩れ、彼らに縋り付き、やめて…!佳代子は死なない!と悲痛に叫ぶ。

しばらくすると少女が顔を顰めだし、やがて、苦悶に満ちた表情を浮かべた。

少女は目を閉じ、苦悶の表情のまま永遠の眠りへと落ちた。

息してない!母親が叫び、父親も叫ぶ。

やがて親戚がバタバタと外に出ていき、医者を呼んだと言い、息を切らせ、中に入ってきた。

がらーっと音を立て扉が開く。

医師が病室に入ると少女を見る。

しばらくすると、医師は彼らに少女の死を告げた。

親族らは涙を流し、彼女の死を嘆いた。

小一時間彼女の死に涙を流すと、ぽつりぽつりと人々が病室を出てゆく。人もまばらになり、最終的に、部屋には少女の遺体と、両親が残った。

彼らの泣きわめく声は、廊下にも響き、悲しみとして、人々の心に突き刺さった。

気づけば場面が変わり、そこは、葬儀場のようだ。

轟々と火が上がる。少女の両親はまるで魂が抜けたかのような目でそれを眺めていた。

僧侶のお経を唱える声と、悲痛の叫びだけが鈍重に響く。

親族は彼らに弔いの言葉を投げかけるが、両親は生気のない顔で、俯くだけであった。

葬儀が終わると、親族一行は葬儀場を出て、斜面を昇って行く。

そして、山神山に彼女の骨が埋められた。

しかし少女の家は貧しかったため、墓は建てられなかった。

その後、誰も彼女の墓参りをすることはしないでいた。

少女は、そう…佳代子は誰にも弔われず、忘れられ、悲しみのあまり、その地をさまよいつづけた。


光が薄れ、闇に染る。

気づけばわたしの意識は現実に引き戻されていた。

目を開けていても、閉じていても、分からないような暗闇にわたしはずっと閉じ込められている。そう実感が湧き、絶望が覆う。

もう、今までの暮らしに戻れることは無いのだろう。

わたしの目に、涙が滲む。

家族との日々、汐梨との外出。田んぼで本を読んだ日々。

楽しかった思い出がわたしの脳裏に浮かぶ。

田んぼで本を読んだ日々……?

思い出の中に佳代子の記憶が混ざっていることに気づく。わたしの記憶に何故、佳代子の記憶が混ざっているのだろう。

わたしは佳代子と一体化しつつあるのだろうか。

そう考えてしまい、背筋が凍りついた。

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