5
人は初め、ウイルスを疑った。次に人為的な陰謀を唱える者が現れ、社会は混沌の渦へと突き落とされた。
生まれて間もない子どもたちは親を見ると泣くようになった。見えずとも、触れられるだけで引きつけを起こし、人によっては喘息を起こし、恐怖に震えた。そして両親の手からは何も食べなくなった。
親は狂い始めた。日に日に痩せて冷たくなってゆく我が子に顔を見せることも、触れることもできず、ただ隔離されるだけの生活は、彼らだけではない、親族、友人、知人、果てには病院の関係者の神経までもを狂わせていった。
──いくつかの新興宗教が出来て、すぐに解体された。
政治家が何人も辞職した。
死は死を呼んだ。
加速度的に増してゆくすべての世帯における死亡数は、流れ始めた大河のようにその勢いを緩めることはなく、無限の水勢となって人々を押し流した。
必然、【天使】の出現も増えていた。
私たちが怒り、悲しみ、昂る時、彼らは現れては去ってゆく。私たちは、彼らを愛していた。それは今思い返せば当然のことであるが、同時に私たちにそんな権利はないということは自明である。
愛などという言葉を吐けるほど、私たちは賢くないし、愚かではない。
いいや、愚かという点で言えば、私たちは別の事柄について途方もなく愚かであった。
衰弱死してゆく赤ん坊の親が、皆天使に触れられていたことを、学者が発表した。
それを受けて【天使】は、社会という一個の群れの敵となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます