第2話 一寸法師(元ネタ)は、巨乳女子高生に妖怪退治への協力を迫る。

 600年ぶりの下界。青い空にふわりと浮かぶ綿雲。小鳥のさえずりが聞こえる爽やかな平日早朝ー。


「おおいっっ!!六条襟っ!!頼むから協力してくれよぉっっ!!」


「ぎゃあぁっ。あんたまた現れたのっ!!嫌だって言ってるでしょぉーーっ!!」


 俺が可愛らしい小さな童子の姿で懇願しながら追いかけるも、悲鳴を上げ、通学路をひたすら逃げていく姫の末裔の娘、六条襟の姿があった。


 ぷかりぷかり……。


「頼むって。妖怪退治には、姫の末裔のお前の協力が必要なんだって!!皆の人気者、この「一寸法師」の頼みを断るなんて、不敬だぞっ?」


 たぷんたぷん……。


「そんな事知ったこっちゃないわよっ!早くどっか行ってーー!!」


 おわんの乗り物に乗り、昔風の着物を着て、風呂敷を背負い、針の刀を腰にさした童子の小人=まるでおとぎ話の一寸法師のような容貌をした俺が追いかけると、襟は走り大声で喚きながら人より大きな胸が揺らしているのを見て、ほんのちょっぴり役得感を感じてしまっていた。


 2日前に六条襟の前に初めて現れ、妖怪退治を頼み事をすると、俺の姿を見て、彼女は幻覚を見たのかとパニックになってしまった。


 霊界タブレット=神との連絡を取ったり、必要な情報を見られる神から授かりし仕事道具の一つ は状況を見かねて、自ら妖怪退治の仕事内容と神からこうなった経緯を襟に説明してくれたのはいいんだが、俺の不名誉な過去まで赤裸々にバラしやがったのだ。


 ただでさえ男嫌いの襟は、そのせいで蔑んだような目でこちらを見ると、俺の頼みを一蹴。


 その後も、襟に何度も協力を頼むのも一度も首を縦に振ってもらえず逃げられるという日々が続いていた。


「姫の末裔であるお前の生気は、妖怪に狙われ易いんだぞ?協力してくれたら、お前を守ってやる。悪い話じゃないだろうが!!」


「はあ?今まで一度も妖怪に狙われた事なんてないし!あんた、生きていた時は女遊びで婚約者に逃げられ、死んでからも天界で神様の女に手を出そうとして、罰としてそんな姿にされて、元の姿に戻る為に妖怪退治を申し付けられたんでしょ?そんな奴の言う事信じられるもんですか!!」


 交換条件を打ち出しても、霊界タブレットのせいで、襟は全く俺を信じず、何の効果もなく手を焼いていた。


 逆にひどい言葉を投げつけられ、俺がショックを受けて固まった時……。


「おっ。やあ、襟ちゃん、おはよう!今日は朝早いんだね!」


「狂四郎さん……!」


 後ろから、長身で眼鏡をかけた男子生徒(なかなかの男前)に声をかけられ、襟は大きく動揺した。


「おっ?何だ?知り合いか?」

「(近所の幼馴染みで一つ上の森崎狂四郎さん。変に思われるから話しかけないで!)」


 質問すると、襟はひそっと囁きそっぽを向いた。


 俺の声は普通の人間には聞こえない。襟が俺と会話しているところは、他の人には独り言を言っているように見えず、奇異の目で見られる事間違いなしだろう。

 これ以上心象を悪くしない為にも俺は大人しく黙って二人の会話を見守る事とした。


「お、おはようございます。狂四郎さん。あなたこそ、朝早いんですね」


「ああ。クラスの副委員長だから、先生から用事を頼まれてね」


「そういうのって、普通委員長がやるもんじゃないんですか?」


「ああ、いや、委員長は普段からクラスのまとめ役をやってくれているから、細々した用事は僕が引き受け……」


「皆をまとめるのは、副委員長もやってるでしょう?そういうの、うまく使われているっていうんですよ。それなのに、ヘラヘラ笑って、バカみたい!」


「ええ?いや、僕はそんな風には……。こりゃ、手厳しいな。ハハハ……」


 襟の強い言葉に、その武人という男子は頭に手を当てて、困ったように笑った。


「私、先を急ぎますのでっ。じゃっ」

「あ、ああ……」


 うんわ。きっついなー!こいつ本当に男嫌いなんだなー。そのやり取りと襟がざかざかと早歩きでその男子を追い越していく様子を、痛々しい気持ちで見守っていたのだが……。


「あれっ?」


 襟の顔は紅潮し、大量の汗をかいていた。


 んん?


 まさかとは思うが……。


 俺は襟の後を追いつつ、風呂敷から霊界タブレットを取り出し……。


 ピッ。ピピッ。


 協力者の健康状態というアプリ項目から、襟の心拍数を調べてみると……。


『六条襟の現在の心拍数 180(平常 時90)』


 ??!


 画面に表示された数字に俺は首を傾げ……、襟の前に回り込むと、試しに問い質してみることにした。


「なぁ。襟……」


「な、何よ。話しかけない…」

「もしかしてだけど、お前、あの狂四郎って男子の事、好きなのか?」


「……!!!!////」

「あっ。おい!」


 その瞬間、襟の顔は更に真っ赤に染まり、裏道に入り、座り込んだ。


「なななっ。なんで分かったのよぉっっ?!」


 俺と初めて会ったとき以上に動揺して、襟はそう叫んだのだった……。





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