ヒーロー側の事情8 ~手を繋いじゃった……~


風に揺られ風鈴の音。

どこか可愛らしい、乾いた音色。


ちりん、ちりん

ちりん、ちりん


心に広がる、淡く切ない音色だ。

数多の人々でごった返した屋台とは違う、人気のない端のほうから、静かに淡く可愛い音たちが聞こえてきた。


音を発する屋台に自然と意識を奪われた。


そこには、白いシャツを着たスラリと背の高い男の人がポツンと立っていた。

何故かそこの周りだけ壁があるかのようで人がいない。

まるで世界から切り出されたみたいに、不思議な雰囲気に包まれている。

僕は吸い込まれるようにその屋台に近づいた。

キミもそんな僕の後を追って来る。


「いらっしゃい」


背の高い男の人が、にっこりと微笑んだ。


屋台に何本もの青竹でできた風鈴の展示棚が掛けてあった。

赤、青、黄色、緑色、橙、紫、色とりどりの色彩を淡いガラスで閉じ込めた風鈴たち。



ちりん、ちりん



可愛い音色で鳴いている。

キミへの贈り物は風鈴がいい。

だって永遠に音色を響かせるから。


音色がキミの耳元に届くたび、キミは今この時を思い出してくれるのではないか?

いずれキミを幸せにする誰かと二人で過ごす日々にあったとしても、風鈴が夜風を受けて、ちりん、と鳴けば、この夏の記憶を呼び覚ましてくれるのではないか?

淡い想いだ。


目に留まったのは、キミの浴衣とおなじ藍色の風鈴。

吸い込まれそうに青いガラスの中を、赤い一羽のヒヨドリが飛んでいる。

それはまるで美しいキミのようだった。

強く、静かに咲き誇る、蓮華の藍色。


風鈴を手元に下げて歩くキミを想像して、僕の胸はもっと苦しくなった。

白いシャツを着たおじさんは、静かに僕の視線の先を追う。

君は僕に寄り添うように立ち、僕は……藍色の美しい風鈴を指差した。



ちりん、ちりん



風鈴の音。

闇を打ちはらう破魔の音。

僕の意識は風鈴の音ともに急速に遠のき、そして再び現実の温度に包まれた。




ドドン、バンッ、バンッ


十重二十重の光の礫が夜空を埋め尽くす。

今日は花火大会。

キミと二人、初めて見上げた夏の夜空がそこにある。


「これかい?」

白いシャツを着た背の高いおじさんは、僕の指差した先で涼しげに鳴く一鈴を手に取った。

「うん……」

「あいよ、坊主400円な」


ポケットから百円玉を4つ取り出して手渡す。

僕は風鈴を受け取ると、即座にキミに手渡した。

キミの顔を見ることなく、そっぽを向いたままの姿勢で。


「ハハ、嬢ちゃん、その風鈴は坊主からの贈り物だそうだ」

おしさんがケタケタ笑いながら、キミの手元の風鈴を見る。

「え!? あ、ありがとう……」

戸惑い気味のキミの声が背後で小さく聞こえる。

僕は恥ずかしくてこの場にこれ以上いることができずに、一人でスタスタと土手に向かって歩き出す。


キミはしばらく手元の風鈴を見つめていたけれど、すぐにカラコロと可愛い下駄の音を鳴らし始めた。

風に揺られるたびに、キミの手元の風鈴が何度も、ちりん、と可愛い音を鳴らす。

まるでキミのように美しい音色だと思った。

胸は苦しいままだった。



僕はヒーローになりたいと思った。

キミを守るヒーローに。

たとえキミがやがては僕のそばを離れゆくのだとしても、そのときまでは……。


ぼくは、再び夜空を見上げた。

夏の夜空を彩る大輪の華達は、天の川のように横たわる僕とキミとの距離を今だけは忘れさせてくれた。


花火大会の帰り道、僕は、生まれて初めて女の子と手を繋いだ。

その相手がキミであることは言うまでもない。

キミの手のひらは微かに震えていた。そして少しだけ汗ばんでいて、すこしだけ冷たかった。



☆-----☆-----☆-----☆-----


「ヒーロー、京一のステータス」

1、覚醒までに消費した時間 :3か月間を消費

2,ヒロインの残り時間   :5.5年マイナス3か月間

3,ヒロイン?母親?    :(母)☆☆☆☆☆0★★★★★(ヒロイン)

4,Mっ気         :項目消失


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