第6話
木の影から誰かが梨花を呼ぶ。
木の影から誰かが手招きをする。
沢山の人が美明と梨花を呼ぶ。
その中には……吸い込まれるような黒い眼……ぽっかりと空いた口……そんな異質な女も混ざっていた。
梨花の額に強い衝撃が走る。
気が着くと梨花は白装束を着て少し前までこの神社の巫女だった者の葬式の準備をしていた。
目の前の椅子に座る女性は水夜だ。
「そうじゃないですよ。奴瘉、これはここにおいて。」
水夜は梨花に優しく配置を教えてくれた。
隣で準備をしている少女は叉夜だ。
梨花は奴瘉では無い。二人のことも勿論知らない。
だがこの時、梨花は自分は奴瘉であると信じ込んでいた。二人を家族だと信じ込んでいた。
何分くらいたっただろうか……梨花は準備に没頭していたようだ。
梨花は周りを見渡す。
もうそこには水夜も叉夜も居ず、いり口には若い女性が一人水を持ち立っていた。
「奴瘉さん、お水お持ちしました。
準備は終りでいいですよ。」
女性が梨花にいう。
「はい」
梨花はまだ、自分が奴瘉と呼ばれていることに全く疑問を抱かなかった。
女性に連れられ部屋にもどる。
六畳くらいの部屋は妹の叉夜と二人で使っている。
叉夜は風呂敷に荷物を詰めていた。
山神本山に行くのだろうか。
梨花は叉夜に問う。
「叉夜、どこに行くの?」
しかし叉夜がその質問に答えることは無かった。
次の日梨花が起きるとそこに叉夜は居なかった。
荷物と一緒にその日、天夜は消えた。
水夜に聞いても世話係に聞いてもそんな子はいないと言われる。
叉夜なんて元々居なかったのだろうか。
叉夜は彼女らの陰謀でその地からいなくなった。
梨花は心の支えだった叉夜が居なくなった哀しみでどんどん参っていった。
その頃梨花は文献で
それからというもの、水夜のせいで,叉夜がいなくなったことを知った梨花は毎晩水夜の寝室に出向き枕元で二万贄の悲歌を歌った。
そのうち水夜も含む村人は梨花を畏れるようになった。
村の会議の際、
山神神社は梨花を邪々川の神々に捧げることを決定した。
その事を知った梨花はより一層、二万贄の悲歌をよく歌うようになった。
数日が経ち梨花は邪々川にある社へ捧げられた。
生贄になる時、社の暗闇に梨花の叫びは響きわたった。
それからというもの村にはクマが出没し、疫病も流行り、山神鷹川村は衰退して行った。
死んだ村人の共通点を知った残った村人は口々に奴瘉の呪いだと言うようになる。
そう,死んだ村人は皆梨花の叫びを聞いている。
そして残った村人は次々に別の場所へと移って行った。
すると村人は引っ越した町や村で奴瘉の話をする。
そして奴瘉悲歌の伝説はたくさんの場所へと広がって行ったのであった。
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