第2話

「ねぇ、今日の音楽の時間は歌を一班のみんなで決めるんだって!さっき先生が言ってたよ」

「そうなの?」

「じゃあこれはどう?」

休み時間、一班の皆は音楽で歌う歌について話し合っていた。

綺華がパソコンの画面を見せると皆の表情が変わる。

目の光は消え,薄ら笑いを浮かべその眼は狂気に充ちていく。

「そうだね。この唄にしよう……」

と何かに憑かれたかのように口々につぶやく。

一班の皆は歌のメモを持ち、職員室へと去って行く。そしてその後ろ姿は狂気に満ちた恐ろしいものであった。


残された綺華のパソコンには奴瘉悲歌の伝説という文字が映し出されていた。


     

 音楽の時間

皆の顔は一様に薄ら笑いを浮かべていた。

声を揃え「奴瘉悲歌伝説」の唄を一心不乱に歌い続ける。


皆は狂ったように歌い続けた。ずっとずっと…ずっと…

チャイムがなっても……他の職員が止めに入っても…………

 **********************


どれぐらい時間が経ったのだろうかー

急に歌声が止んだ事に気がづいた沙優は音楽室に入る。

するともうそこにはもう誰もいなかった。

沙優は誰もいない部屋に一枚の紙が落ちているのを見つけ、拾い上げてみる。

奴瘉悲歌の伝説

子供が描いたであろうその文字を見て、沙優はその日から奴瘉の悲歌を猛烈に歌いたいと思うようになった。

        

沙優は数日前から仕事を休んでいた。

今の沙優には家に籠り、あの唄を歌いたい気持ちを抑え込む事だけで精一杯であった。

しかしそんな生活も長くは続かず、気づくと沙優はあの唄を口ずさんでいた。

やめよう、やめようと思っているのに口からかしが飛び出してくる。

ドンドンドンドンドン

部屋の扉が激しく叩かれる。

誰だろう……

沙優は扉を開けた。

「はー」

それを見た瞬間、返事をする声が止まった。

そこには吸い込まれるような漆黒の目、真っ白な体の女が立っていた。

この世のものとは思えない姿に思考が一瞬、止まる。

気づくと沙優は背後の階段を一心不乱に駆け上がっていた

まって……ここはマンション……階段なんてない……よね……引き返さないと……

背後からは女が追いかけてきている。

仕方ない……このまま……上に登るしかない……


ここはどこ…

次に目を覚ました沙優は神社の参道に横たわっていた。

「こっち…!」

木の陰から人々がこちらを見ている。

あの歌を歌った生徒たち、そして知らない男性が沙優を見ている。

沙優はここにいては行けないような気がしてそちらの方に向かう。

石畳が波動で波打った。

ギャーーーーーーーー

神殿の中から耳を劈くような女性の叫びが聞こえた。

そして神域には永く余韻を残すように女性の叫びは響き渡った。

沙優はただただそこに立ち尽くすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る