番外編1 エスティアのその後

エスティアは異世界からアルドを送り返した後、ただ一人、静かな洞窟の中で考えを巡らせた。彼女の心には、アルドの悲しみと、アイリアの無残な姿が焼き付いていた。


「彼女をこのまま放置することはできない」


エスティアは決意し、魔法の書物を広げた。そこには、魂を呼び戻し、身体を再び生命で満たす極秘の術式が記されていた。彼女はアイリアの身体に向かって、複雑な魔法の詠唱を始めた。


「我が風よ、時を超えて魂を導け、テンポラルサミング!」


風が巻き起こり、アイリアの周囲を舞う。エスティアはさらに続ける。


「我が光よ、生命の火を灯せ、リビングライト!」


彼女の手から溢れる光が、アイリアの身体に吸い込まれていく。それは死んだ肉体に再び生命力を与えるための光だった。


時間をかけて、エスティアは魔法を重ね、ついにアイリアの心臓が鼓動を打ち始めた。彼女の肌に色が戻り、息がかすかに感じられるようになった。


「生き返った……」


エスティアはほっとした表情で呟いた。


「魔力を持つ者が、簡単に死ねるわけがない。嫌なものね……」


しかし、この蘇生には大きな代償があり、アイリアの記憶は完全には戻らず、彼女は過去の自分とは少し違った存在となるかもしれない。それでも、エスティアはアルドの想いと彼女の魂を守るために、この魔法を施した。


・・・・・・


数年の月日が流れ、アルドは未知の土地にたどり着いた。その港に降り立ったとき、そこもまた廃墟と化していた。しかし、その廃墟の中に、一人の少女がいた。彼女は、アイリアにそっくりだった。金髪のロングヘア、青い瞳、そして何よりもその雰囲気があまりにも似ていた。


アルドはその瞬間、驚きと悲しみが交錯する中で、彼女に近づいた。少女は彼の視線に気付き、笑顔で近づいてきた。


「また会えたね、アルド」


あの日以来の再会に、アルドは言葉を失った。彼女の存在は、彼の心を揺さぶり、過去の痛みと新たな希望を同時に引き起こした。しかし、彼女が本当にアイリアであることを信じるには、単純な呼びかけだけでは足りなかった。


「アイリア…本当に、お前なのか?」


アルドは慎重に尋ねた。


彼女は微笑み、アルドの手を取り、優しく握った。


「私の声、覚えてる?  私たちが一緒に過ごした日のことを、忘れてないよね?」


アルドはその声に覚えがあった。彼女の声は、アイリアのものと変わらない響きを持っていた。さらに、彼は試すように質問を重ねた。


「俺たちが初めて会った場所を教えてくれ。ちゃんと覚えてるか?」


「もちろん、学校の裏庭。あなたが木に登って落ちそうになったとき、私が助けたの。忘れるわけないじゃない」


その答えは、アルドの記憶と完全に一致していた。彼は彼女の記憶を試し続け、ついに確信を得た。


「アイリア……本当に、お前なのか……」


二人は互いの存在を確認するかのように抱き合い、涙を流した。過去の悲劇から二人は再会し、その絆を確かめ合った。


その後、アルドは彼女と共に再び船に乗り込む決意をした。二人で新たな冒険を始めることで、過去の痛みを癒し、未来を見つめるためだった。


船上での夜、二人は星空の下で語り合った。アイリアは魔力を失った代わりに、純粋な心を取り戻しており、彼女の幼さはそのままに、心は深い理解と愛を持っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る