第6話 最終決戦

そして、二人は不思議な巨大な扉の前にたどり着いた。その扉の先からは重々しい空気が僅かながらに感じ取られた。


「もしかしたらこの奥に……」


アルドは息をのみ


「さあ……何が出てくるかしらね」


二人は扉を押し開ける。


ゴゴゴゴゴゴ


扉が開く音と共に、アイリアの姿が露わになった。彼女の表情は、再会の際に見たその恐ろしい形相を保持したままだった。彼女の周囲には異様なエネルギーが渦巻いており、部屋全体がその影響下にあるようだった。


アルドは一歩前に出て、震える声で呼びかけた。


「あい……アイリア、どうしてこんなことに……」


アイリアはアルドを見据え、声が震える。


「アルド……あなたが戻ってこなかったから……私は……」


彼女の言葉は途中で途切れ、苦しげに顔を歪めた。アルドは一歩前に出る。


「俺は、俺は戻ってきたんだ。お前を助けるために、ここに来たんだ!」


エスティアはそのやり取りを見守りながら、何かを察したようだった。彼女は直接的な攻撃を避け、魔法を使ってアイリアに取りついている何かをあぶり出す準備を始めていた。


「助ける? もう遅いよ…私は……もう……」アイリアの声は苦痛に満ちていた。


アルドはひたすら彼女への対話に注力し、言葉を探し続ける。


「アイリア、俺はお前を見捨てるつもりはなかったんだ。実はあの日、お前の顔を見ただけで俺の決意は鈍りそうだったんだ……。でも今なら言える。俺が間違っていた。あのときお前に告白していれば……こんなことには……」


アイリアの表情が少しだけ和らいだように見えたが、それでも彼女の周りには暗いオーラが渦巻いていた。


「もう、何もかもが遅いのよ、アルド……私は……もう戻れない……あの時に貴方の想い聞きたかったよ……」


アルドはその言葉に心を引き裂かれそうになりながらも、彼女を正気に戻すことに全力を尽くした。


エスティアはこのやり取りを静かに眺め、魔法を使ってアイリアに取りついている力を探り始めた。彼女は何かを考え、そして何かを感じていた。この対話が、潜在する悪の力を引き出す鍵となることを知っていたからだ。


「アルド、彼女に話しかけ続けて。私は、彼女を取り巻く闇を見極める」


エスティアが緊張感ある声で言った。


アルドはアイリアを見つめたまま、強く頷いた。


「ああ、やるべきことは一つだ。お前を救うことだ、アイリア」


アルドはエスティアを守るためだけに動き、アイリアへの攻撃は一切行わず、ひたすら彼女に語りかけた。


「アイリア、俺がここにいるんだ。お前が本当に感じていることを、俺に話してくれ。俺はお前を理解したいんだ」


エスティアはその間に、魔法を使ってアイリアを取り巻くエネルギーを探り、支配する何かをあぶり出す作業を続けた。彼女の目はアイリアではなく、その背後にある影を捕捉しようとしていた。


アイリアの表情は徐々に変化し始め、彼女の内部で何かが闘っているかのような苦しみが見て取れた。アルドの言葉は彼女の心に少しずつ届き始めていた。


エスティアは悪魔を見据え、魔法の力を最大限に引き出す。


「我が雷よ、悪を打ち砕け、ライトニングストライク!」


雷が炸裂し、悪魔の影を打ち据える。悪魔はその攻撃に苦しみ、声を上げた。


「貴様……」


しかし、アイリアの表情は徐々に明るさを取り戻し、彼女の真の心が表面に現れ始めた。アルドはその変化に希望を見出し、さらに言葉を続けた。


「アイリア、お前の心は強いんだ。俺はそれを知っている。俺たちはお前を助けるから、もう一度、共に歩もう」


悪魔は再び力を振るおうとし、その際にアイリアの身体を利用しようとしたが、エスティアの魔法がそれを防いだ。


「させない! 我が氷よ、邪悪を封じ込め、アイスバインド!」


氷の魔法が悪魔を拘束し、その動きを止める。エスティアはその隙に、悪魔とアイリアを分離する魔法を準備した。


「我が光よ、闇を分断せよ、ディバインセパレーション!」


光が悪魔とアイリアの間を切り裂き、彼女の身体から悪魔の影を引き離そうとした。アルドはその瞬間を見逃さず、さらにアイリアに呼びかけた。


「アイリア、俺はお前の側にいる。もう一人じゃない。俺たちは一緒に戦うんだ!」


アイリアの目から涙が溢れ、彼女はようやく自分の声を取り戻した。


「アルド……本当に……あなたが……」


彼女の言葉が完全に自由になるにつれ、悪魔の力は徐々に弱まっていったかのようにみえた。しかし、悪魔は最後の抵抗として、アイリアから残りの魔力を全て奪い取った。アイリアはその代償を払うかのように、無残な姿へと変わっていった。彼女の顔は苦しみに歪み、目は焦点を失い、まるで乾いた葉のように、生気を失っていった。


エスティアは少し目をそらす。しかしこれは最大の好機でもあった。悪魔がアイリアの体から魔力をすべて奪い取り、動きが止まる一瞬を逃さず、最後の一撃を加える。


「我が火よ、邪悪を浄化せよ、インフェルノバースト!」


炎が悪魔を包み込み、その存在を焼き尽くそうとした。悪魔はその攻撃に耐え切れず、苦しみながらも消えていく。


「我を倒したところで……何度でも復活する。永遠に……ククク……」


悪魔の最後の言葉が残響し、その影は徐々に消え去った。悪魔に魔力を吸い取られつくした彼女は息をしていなかった。


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