第5話 再会と試練

エルは生きていたが、見た目は酷く疲れ果て、まるで魂を抜かれたような表情をしていた。


「エル、どうしてこんなところに…?」


アルドの問いに、エルは苦しそうに答えた。


「俺も……ここに連れてこられたんだ……。彼女が…変……わって……しまった。アルド、お前が戻ってこないから……彼女は……」


エルの言葉は途切れ途切れで聞き取りづらく、エルが話し終わったあと僅かながら静寂な時間が流れた。


アイリアが何か恐ろしいものに変わったことが、アルドの心に刻み込まれた。


エスティアはエルを見て、何かを感じ取ったようだったが、それが何かは言わなかったが、彼女はアルドに向かって


「でも、心配しないで。私たちにはまだチャンスがある。」


と声をかけた。アルドは言葉を発せず、エスティアの言葉に頷いた。



エルはその場から動けず、疲れ切った表情で座り込んでいた。彼はアイリアの影響でここに引きずり込まれ、心の奥底で何かと戦っているかのようだった。


「俺は……ここから動けそうにない……俺に構わなくていいから……」


エルは苦しそうにアルドに伝えた。


アルドとエスティアは、エルを置いてこの謎の世界を探索し始めた。二人は巨大な洞窟の中を進んでいた時、天井から無数の針が降り注ぐトラップに遭遇した。エスティアは素早く反応し、


「我が風よ、我々を護れ、ウインドシールド!」


と詠唱し、風の壁を瞬時に展開。針が地面に突き刺さる音を聞きながら、二人は新たな脅威に備えた。


進むにつれて、見慣れない魔物が現れた。それは巨大な、鱗に覆われた獣で、口から激しい炎を吐く。アルドはナイフを構え、


「くそっ……来い……!」


と叫びながら近接攻撃で挑む。エスティアはその間隙を突き、


「水の精霊、我が敵に止めを、ウォーターブラスト!」


と唱え、炎を吐く魔物に強力な水流を放つ。魔物はその攻撃に耐えられず、苦しみながら倒れていった。


次に現れたのは、巨大な蛙のような魔物で、周囲に水の泡を発生させていた。アルドはナイフを握り直し、エスティアは即座に反応し、


「雷鳴よ、天から落ち、ライトニングストライク!」


と詠唱。雷の魔法は水の泡を通り抜け、魔物を一撃で沈黙させた。


しかし、休む間もなく、雷の力を操る魔物が現れた。エスティアは狙いを定め、


「我が炎よ、敵を焼き尽くせ、ファイアボール!」


と唱え、炎の球を放った。炎は魔物の雷を消し去り、魔物自身も火傷を負い、苦しみながら倒れた。


トラップも魔物も容赦なく二人を襲うが、エスティアの魔法は次々と的確に敵の弱点を突き、アルドのナイフ攻撃がそれを補完する。二人は息をつく間もなく、進み続けた。まるで長年のパートナーだったかのように息がピッタリな二人は、次々と襲い掛かる魔物やトラップにも臆することはなかった。


「私たち息ピッタリね。」


アルドは、少し照れながらも笑みを返した。


「ああ、エルと一緒に船を漕いでた頃の感覚が戻ってきたみたいだ」


「エルさんか。あなたの大切な友人だったのね」


エスティアは静かに言った。


二人は洞窟の奥へと進みながら、少しずつ互いのことを話し始めた。エスティアはアルドの海での冒険話に興味を示し、彼女自身の経験も少しずつ明かすようになった。


「異世界を旅するのは、初めてじゃないの。でも、あなたのような人と一緒に行動するのは初めてよ」


彼女はアルドを見つめ、目を細めた。


「俺は初めてだ。異世界も、魔導士も。ってそれはそうか」


アルドは苦笑しながら答えた。


「魔導士って、なんだか格好いいじゃないか。でも、こんなところで会うとは思わなかった」


エスティアは笑い、


「魔導士の仕事は、思ったより地味なのよ。書物に埋もれて、魔法の理論を研究したり、事故を防いだり」


「それでも、俺たちを助けるためにここに来たんだろ?」


「んー。そうね。といいたいところなんだけど、実際に私がここに来た目的は別にあるのだけどね。」


エスティアは少しだけ本音を覗かせた。


道中、二人は何度も危険なトラップや魔物に遭遇したが、そのたびに互いの動きが自然と連携し、信頼関係を深めていった。最初から息があっていた二人は、進めば進むほど更に息が合わさり、より楽々と敵やトラップを処理していく。アルドはエスティアの魔法の精密さと彼女の考え方に感心し、エスティアはアルドの勇敢さと、何よりも彼の純粋な心に惹かれていった。


「アルド、あなたは本当に、アイリアさんのことを大切に思っているのね」


エスティアが突然話題を変えた。


「ああ…。俺は、あいつを助けなきゃいけないんだ」


アルドの声には決意が込められていた。


「彼女を救うために、ここまで来たんだ」


エスティアはかつてここまで想われたことがなかった。エスティアはアルドの純真さや人柄に触れ、自身の中でアルドへの想いが芽生えていくのを感じた。もちろんそれは決して叶わない想いであるということが分かったうえで。

アルドはそんな彼女の想いなど知らずに続けた。


「俺は、あの街に帰るべきだった。アイリアとエルを……」


アルドは悔しそうに言葉を切る。エスティアは彼の肩にそっと手を置き、「過去は変えられないけど、今を変えることはできるわ。私たちが協力すれば、きっとね。」


二人は互いに助け合いながら、洞窟の奥へ進み続けた。アルドは彼女がいなければこの試練を乗り越えられなかっただろうと心から思った。


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