第3話 帰郷

8年間の船乗り生活を経て、アルドはとうとう故郷の港に戻った。だが、そこに広がっていたのは、彼が知るあの明るく賑やかな町ではなく、静寂に包まれた異様な風景だった。風は吹き、波は打ち寄せるが、町の音は消えていた。通りには草が生い茂り、かつて活気に満ちていたはずの家々の窓は、壊れたガラスが光を反射するだけだった。


アルドは丘の上から見下ろしていた学校へ向かったが、その校舎もまた、人気のない廃墟と化していた。かつて笑い声が響いていた場所には、今は風の唸る音だけが聞こえる。街はまるで、時間が止まったかのように、生気を失っていた。


自分の家に戻ると、そこにも人影はなく、埃に覆われた部屋の中では、エルが残したと思われるメモが見つかった。しかし、何が書かれているのかは読めない。アルドは不安に駆られながらも、アイリアの家へと足を進めた。


アイリアの家だけは、異様に散らかっていた。家具はひっくり返り、紙が散乱し、まるで何者かが荒らしたかのようだった。アルドは恐る恐るアイリアの部屋に入った。彼女のベッドには、謎の液体が染みつき、異様な臭いを放っていた。その液体は冷たく、触れると肌が粟立つような感覚があった。


アルドはその場で立ち尽くし、何が起こったのかを理解しようとしたが、答えは得られなかった。だが、彼の心には既に嫌な予感が広がっていた。


そして、かつて共に過ごした学校で、アイリアと再会した。彼女の姿は、アルドが知るあの明るい少女の面影を完全に失っていた。アイリアの瞳は暗く、表情は歪んでおり、まるで別人のようだった。彼女の笑顔は見当たらず、その代わりに、空虚で狂気じみた視線がアルドを捉えた。


「あなたは……なぜ、戻ってきたの?」


アイリアの声は、まるで地の底から響くような、低く冷たいものだった。彼女はアルドを見つめ、笑うでもなく泣くでもなく、ただ立ちつくしていた。


「……」


アルドはうまく言葉にできず、ただその場で立ち尽くすしかなかった。

ただアルドには一つだけわかったことがあった。この8年間で何かが大きく、そして恐ろしく変わってしまったことだった。アイリアの周りには、不可解な影が揺らめき、部屋の温度が急に下がったかのように寒さを感じた。彼女の存在自体が、アルドに恐怖を抱かせるものだった。


アルドはこの変わり果てた街と、アイリアの豹変した姿から、何か恐ろしいものがこの町を支配していることを直感した。


アイリアはアルドが無言の中


「でもね……もう……遅いんだ」


と言い放ち、どこから取り出したかわからないナイフのようなもので、アルドの心臓を一突きにした。


「……っ」


アルドは言葉にならない声を上げ、口から熱いものがこみあげてくるものを感じた。

そして徐々に視界はぼやけていった


(ここで俺は死ぬのか……)


アルドは深い暗闇に落ちていくのを感じ、意識を失った。


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