第2話 船乗りの日々

卒業式が終わり、アルドはアイリアに何も告げず、エルさえも置き去りにして、一人静かに街を後にした。その理由は、自分でもよくわからないままだった。ただ、海へ出る決意が、彼の中で他の全てを上回ったのだ。


アルドは新たな船に乗り込み、広大で無限に広がる海へと旅立った。船は『海の風』という名前で、船長はベテランの海賊から商船の指揮官に転じた、豪放磊落な男、バルタザールだった。船には他にも、腕利きの航海士ガルシー、船医のマリア、料理長のパブロ、そして見習い水夫たちがいた。


彼らの生活は厳しく、嵐の日には船が壊れるかと思うほどの波に翻弄され、日焼けと海水で肌は荒れ、手は魚の鱗でざらついた。しかし、そんな中でも、アルドは海の魅力に取りつかれていた。海は彼に自由と冒険の喜びを教えてくれた。


最初の航海では、未知の島に到着し、そこで珍しい生物と出会い、新たな植物を発見した。ガルシーは星空を読み、次の目的地を決め、マリアは怪我や病に苦しむ船員を癒し、パブロはみんなが海で疲れた体に元気を取り戻すような料理を振る舞った。


海賊との戦闘もあった。アルドは初めて戦いの恐怖を知りながらも、仲間を守るために立ち上がった。バルタザールの指示の下、船員たちは一丸となって海賊船を撃退し、アルドはその勇気と行動力で一目置かれるようになった。


海はまた、アルドに友情を教えた。船上での夜、星空を見上げながらの話し合いや、船の中で響く笑い声、そして危険な海域を共に対処する経験は、アルドと他の船員たちとの絆を深めた。エルやアイリアのことを思い出すことは多かったが、海の広さとその厳しさは、アルドに新たな人生の目的を見つけさせる。


彼は海図を学び、航海術をマスターし、魚釣りから船の修理まで、船乗りとして必要な全てのことを吸収した。アルドは、海で生きるということがどういうことかを体で理解した。海は彼を鍛え、成長させ、そして何よりも、自分自身と向き合う時間を与えてくれた。


月日は流れ、8年が経過した。その間、アルドは幾多の冒険を経験し、数え切れないほどの苦難を乗り越えた。しかし、海の彼方に広がる自由と、そこに見つけた新しい自分自身の姿は、アルドにとってかけがえのない宝物だった。だが、故郷の港へと戻る時が来たとき、アルドの心の中には、海の広さに比例して広がる空白があった。

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